第二百三十五夜   共働きの両親が東京へ戻った月曜の朝、独り母の実家に残された私を退屈させまいと思ったのだろう。祖父は私を納屋へ連れて行き、そこにある機会がいかに危険かを説明してから、畑仕事を見に来るかと誘った […]
第二百三十四夜   患者の容態が安定し、ほっと胸を撫で下ろしてナース・ステイションで一息吐く。お茶を啜りながら、 「先刻はどうして……?」 と、保留していた疑問を先輩看護師に投げかかける。 小一時間前のこと、ナ […]
第二百三十三夜   耳慣れない音に目を覚ますと、常夜灯の橙色の灯りに、いつもよりずっと高く広い天井が視界を覆っている。枕や布団も普段よりずっとふかふかで、自分が寺生まれの友人宅に泊まりに来ているのだと思い出され […]
第二百三十二夜   私の開けた後部座席のドアから乗り込むなり、 「運転手さん、コレ」 と、スーツ姿の女性が派手な花柄の紙袋の紐を摘むようにして持ち上げ、こちらに示した。 顔見知りのお客様というわけでもないから、 […]
第二百三十一夜   郊外のホームセンタへ妻と娘を載せてきた。が、買い物をしている間は基本的にお呼びでない。妻に買い物が終わったら荷物を運ぶから携帯へ連絡するよう伝えて、屋上の駐車場に設えられた喫煙所へ上る。 車 […]
第二百三十夜   リビングに置かれた父のPCを借りてモニタと睨めっこを続けていると、後ろを通り掛かった母に、 「昔からアンタは写真写りだけは良いのよね」 と声を掛けられた。 「はい。誰かさんに似たものですから」 […]
第二百二十九夜   帰りの会が終わってランドセルを片手に席を立つと、後ろの席の女子から呼び止められた。 続々と教室を出て行く級友達を早く追いかけたいが、一体何の用かと問うと、卒業式の後、謝恩会で弾くピアノの練習 […]
第二百二十八夜   大きな一枚板の食卓のある部屋で座布団を勧められた。少しふっくらとした体型の女性が、 「こんな田舎まで来て一日船の上でお疲れでしょうに、特別なおもてなしも出来なくて」 と申し訳無さそうに茶を差 […]
第二百二十七夜   フクロウの石像を背に立って文庫本を開きゼミの友人を待っていると、 ――チリリ、チリリ 周囲の喧騒の中で妙に目立つ鈴の音に気付いた。声量は大きくないのによく通る声というものがあるのと同じような […]
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