第二百三十夜

 

リビングに置かれた父のPCを借りてモニタと睨めっこを続けていると、後ろを通り掛かった母に、
「昔からアンタは写真写りだけは良いのよね」
と声を掛けられた。
「はい。誰かさんに似たものですから」
とトイレに向かう後ろ姿に軽口を叩いて、再びモニタに向き直ると、和室の長い食卓に並べられた料理を囲むジャージ姿の高校生の一団の写真が表示されている。

半年以上前に行った修学旅行の一コマだ。

写真を趣味にしている父からミラーレス一眼、二種類のレンズと最低限の技術を与えられ、
「思い出を撮ってこい」
と送り出された。父としては格好の好いセリフのつもりだったのだろう。

父の被写体になるばかりだったが、いざカメラを構えると、なるほどなかなか楽しいもので、自分の写真の残らないのを忘れてずっとクラス・メイト達や風景の写真を撮って過ごしていた。

それを皆に渡したかったのだが、受験の忙しさとものぐさとでついつい後回しになり、いよいよ卒業式も間近となってようやく重い尻を上げ、誰にどの写真を上げるかの吟味をしていたわけだ。

モニタの中でカメラ目線でニッコリと微笑む私と目が合う。他の皆は料理を見つめ、取り皿を回したり、茶碗にご飯をよそったりしている中で、私一人がこちらを見下ろすレンズを、父に習ったいつもの笑顔で見上げている。

おかしい。

結局修学旅行中には、このカメラを他人に任せたことは無かったはずだ。撮るのに夢中になってもいたし、スマホで十分綺麗な写真を撮れる女子高生にとってはミラーレス一眼でさえ「難しそう」だったからだ。

ならば、この写真は誰が撮ったのか。

棚や机に放り出して、たまたまシャッタが切れたというものでは決してない。筐体に対してレンズが大きいため、水平な面に置いてこんな俯瞰になるはずがないからだ。仮にこんな角度であれば、置かれた台から落ちてしまうし、そもそもレンズ・カバーを外したまま放っておくことも無いはずだ。

そう思うと、モニタの中の自分の笑みが、何か寒々しいものに見えてきて、私は慌ててそのファイルを削除した。

そんな夢を見た。