第百九十二夜   紅葉の渓流を写真に収めようと車を走らせていると、人里から随分と離れたところで谷を眺めながら歩く人影に追いついた。肩に提げた荷物から釣り人と分かる。 こんなところを一人で歩く姿に違和感を覚えるが […]
第百九十一夜   玄関先に立って二人の女声を相手に、もう三十分も押し問答を繰り返している。 通信販売で買った荷物の指定した時刻に一致していたため、呼び鈴を押されて不用心に玄関を開けてしまったために宗教勧誘を受け […]
第百九十夜   突然の休講で昼休みが長くなり、学食で食事を終えると手持ち無沙汰になった。同じ境遇の友人と連絡が付き、駅前の雑貨屋を見て回ることにして正門前で待ち合わせる。 早足に正門へ向かうと、その脇でリュック […]
第百八十九夜   大学のサークルで参加したイベントの後片付けに手間取って、終電を逃した。 しかし、家の近い友人を持つ者も少なくなく、始発の動き始めるまで居場所の無いのは私を含め五人で、駅から近い二十四時間営業の […]
第百八十八夜   残業をどうにか終電に間に合わせ、人気の無いベッド・タウンの駅で降りる。 駅前の繁華街は狭く、大通りを一つ渡ると直ぐに薄暗い住宅街へ入る。一定の間隔で街頭が立ってはいるがその間隔は疎らで、蛍光灯 […]
第百八十七夜   父方の祖母の法事で、記憶にある限り初めて父の実家へやってきた。その祖母というのがどうも母と折り合わず、私の物心付くより前に大喧嘩をして以来、ほとんど往来が失くなったのだという。 定型句のように […]
第百八十六夜   トレイに載せたグラス二つを窓際の少女達へ運ぶと、 「ね、新しい都市伝説、仕入れちゃった!」 と聞こえてきた。 私のバイト先であるこの店は大手チェーンに比べて値段が安く、彼女達のような学生服姿の […]
第百八十五夜   酔い潰れた連中の世話を一通り終え、寝る前にさっぱりしようと大浴場へ来ると、深夜ということもあって人気がない。折角海沿いの斜面に設えられた露天風呂の景色は闇の中だが、そちらは朝風呂でのお楽しみと […]
第百八十四夜   夕方から夜通し車を走らせて、東北のある山中の川岸へ付いたのは丑三つ時の闇の中だった。 高速道路は混む様子もなく、禁漁期間前最後の休日と意気込んで張り切りすぎたか。朝間詰めまでは暫くある。夜道の […]
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