第二百十三夜

 

買い物を終え、昼食に何を作ろうかと考えながら海岸線の道を走っていると、前方の磯にちらちらと動くものがある。

少し近付いて、どうやら青い上着を着た子供のようだとわかるが、他に誰の姿もない。

この寒空に子供が独り磯遊びなどするものだろうか。そもそも、毎週のように買い出しに行き来しているが、こんなところで子供を見るのは海水浴の季節だけである。

余り気になるので道幅の広いところで車を左に寄せて駐め、しゃがんでみたり、跳びはねてみたりを繰り返す子供に近付いて、
「おーい」
と声を掛けた。子供はまるで声の聞こえないかのように無反応で、磯の岩場を跳ね回ったり、岩の隙間を覗き込んだりを続ける。

子供がどうやら少年であることの見て取れる距離まで近付いて、
「おーい、こんなところに独りで、どうしたんだ」
ともう一度声を掛ける。と漸く彼が振り向き、
「練習」
とぼそりと言う。
こんなところで一体何の練習かと重ねて問うと、
「神隠し」
とまたぼそり。
――神隠しの練習?

迷子になったときのサバイバル術でも練習しているつもりだろうか。これくらいの年頃なら、本か何かで見聞きしたものに憧れて妙なことをしでかすのも不思議ではない。私も忍者の修行だとか、漂流生活の真似事だとかをした覚えがある。

兎に角危ないから程々にして帰るようにと言って、冷えた手を吐息で温めながら車に戻る。

シートベルトを締め、エンジンを掛けながらふと視線を磯に向けると、少年はまだ磯を跳びはねていた。

そんな夢を見た。