第二百十七夜

 

病院のロビィに飾られた観葉植物の脇に立ち、スマート・フォンを弄っている。

別にどこが悪いのでもない。寧ろ今のところは全くの健康体であって、診察に訪れている人達からウイルスなりを貰わぬうちに退散したい。

玄関の自動ドアが開き、血相を変えた中年の夫婦が慌てた様子で入ってくる。見れば、始めて見る顔だがどことなく見覚えのある顔で、私が今ここにいる原因となった男の両親だろうと察せられる。

手を上げて近付き尋ねると、果たして友人の両親で、ひとまず事情を説明する。

朝六時頃、徹夜でレポートを書いているところへ友人から連絡が来た。曰く、朝まで他の友人達と車で山へ行っていたのだが、朝食前に皆帰ると言い出した。それぞれ送って暇になったから、一緒にどこかのファミリィ・レストランで朝食でもと言う。レポートもほぼ終わり、自分へのご褒美に少し贅沢でもするかと誘いに乗って近所のファミリィ・レストランで落ち合った。食事の後、暫く無駄話をしていると、突然彼が苦しみ始め、額に脂汗を浮かべ、喀血して痛みを訴えた。

そこで店が救急車を呼び、知人として同乗し、検査をするから待っていろと看護師に言われて今ここに至るのである。
「なにか変なものでも食べたのか」
と問われるが、別のメニュを頼んだのでよくわからない。店のレシートを渡し、
「食事をしたのはこちらです。レポートを仕上げないとならないので、後は宜しくお願いします。そろそろ、検査を終えて看護師さんが来ると思いますので……」
と帰ろうとしたところへ、丁度看護師がやって来る。

彼女に両親を紹介して立ち去ろうとすると、看護師は少々きつい口調で私を引き止め、
「彼のX線写真を撮ったのですが、胃の中に大きな裁ち鋏が写ったんです」
と言う。なにか心当たりはと言われても、店で会って食事をしただけだし、料理にそんな物が入っていた覚えも勿論ない。

とにかく、そんなものに心当たりはないと言って踵を返す。彼が退院したら、建て替えた食事代に迷惑料も付けて返してもらおう。

イライラした足取りで自動ドアを抜けながら、店での彼の話をふと思い出した。彼が夜中ドライブに行った山の廃ホテルは、昔女性が殺されただか自殺しただかと噂される心霊スポットだったと。
そんな夢を見た。