第百夜   風呂上がりの濡れた髪にタオルを巻き、居間兼寝室の炬燵の中で浮腫んだ脚を揉んでいると、風呂場からぎゃあと可愛げのない悲鳴が聞こえた。 ゴキブリでも出たのなら自分で片付けられるような度胸のある妹ではない […]
第九十夜   先方の都合で残業がなかなか片付かず、仕方無しに軽い夕食を摂ろうと職場から最寄りのコンビニエンス・ストアヘ向かう。 人通りもほとんど無くなった裏通りの赤信号を我ながら律儀に待っていると、店の前、横断 […]
第八十七夜   友人の別荘をお暇して暗い山道を下っていると、頭の上で大きく両手を振るヘルメット姿の人影をヘッド・ライトが照らし出した。細いジーンズに包まれた腰回りからして、どうも女性のようだ。 慌ててスピードを […]
第八十五夜   朝の列車というのは不思議な空間である。 一定の空間内に限界まで人が密集していながら皆が周囲に無関心であり、気力の充実しているといないとに関わらず、精々が情報集や勉強をする程度で、出来る限りエネル […]
第八十三夜   終電を最寄り駅で降りると、疲れきった頭と身体は習慣に引き摺られて半ば無意識に改札を出て家路を辿る。 駅前のロータリーを抜けて交差点を斜めに渡ると、そのまま公園へ入る。律儀に公園の周囲を周るより中 […]
第八十夜   深夜の自動改札を抜けて階段を昇ると、まるで人気の無いホームに出た。 普段は最終電車で帰るのだが、その場合ホームはもう少し賑やかだ。今日は少し早めに仕事を切り上げた分まだ数本の電車が残っているはずだ […]
第七十一夜   トレイに載せたグラス二つを窓際の少女達へ運ぶと、 「ね、新しい都市伝説、仕入れちゃった!」 と聞こえてきた。 私のバイト先であるこの店は大手チェーンに比べて値段が安く、彼女達のような学生服姿の客 […]
第六十七夜 「で、相談って何です?」 頼んだ料理が揃って乾杯し、グラスのビールを一口呑んで若い男が問う。卓の向かいには高級なスーツに身を包んだ四十絡みの紳士が土気色の顔をしてグラスをあおっている。グイグイとグラスを空け、 […]
第六十五夜 合宿初日に興奮で寝付かれぬ後輩たちにせがまれて、消灯時間を過ぎた中、キャンプ用にロウソクの灯の色を真似たLEDランタンをこっそり囲んでトランプ遊びをすることになった。三年が引退して部内では最上級生になったもの […]
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