第八十五夜

 

朝の列車というのは不思議な空間である。

一定の空間内に限界まで人が密集していながら皆が周囲に無関心であり、気力の充実しているといないとに関わらず、精々が情報集や勉強をする程度で、出来る限りエネルギを温存するべく目的の駅までを過ごす。余程耐え難い不快感か犯罪行為を受けない限りはほとんど無言で、場合によってはそれらを受けてさえ無言を貫く。

かく言う私も、何やら硬いもの柔らかいものザラザラしたものスベスベしたものに四方から押さえつけられながらそっと目を閉じたまま、目的の駅への到着を知らせるアナウンスを待っていた。不快でないと言えば嘘になるが、不快を訴えたところでどうなるものでもない。エネルギを無駄遣いし余計な小皺を増やすだけなので、表情に不快感が現れぬよう平常心を心がける。

ようやく目的の駅に着き目の前の扉が左右に開き始めるや否や、列車の奥から大きな圧力が背中に掛かり、つんのめった身体を支えるべくスーツのタイトスカートが引きつるほどの大股で右足をホームへ伸ばす。

ホームへ付いた脚へ体重を移動しながら足元を見ると、列車とホームとの五センチメートルほどの隙間に青白い顔のようなものが見えた気がする。

驚いて振り向こうとするが、既に隙間の上には列車の吐き出した無数の脚が交差しており、立ち止まることさえ難しい。後ろ髪を惹かれつつ、大人しく仕事場へ向かうことにした。

そんな夢を見た。