第二百九十二夜   「ねぇ、あの部屋は駄目だよ」。 始発前、二時間ほども寝ていない皆を叩き起こし、腹が減ったと言ってファミリ・レストランのチェーン店へ連れてきた張本人が、珈琲を一口飲んで放った第一声がこれだった […]
第二百九十一夜   トレイに載せたグラス二つを窓際の少女達へ運ぶと、 「小学校の頃、組体操ってやったことある?」 と聞こえてきた。 私のバイト先であるこの店は大手チェーンに比べて値段が安く、彼女達のような学生服 […]
第二百八十八夜   夕食に間に合うよう、陽の傾いた頃に友人と別れて帰路についたが、電車の中の人々も、マンションの共用玄関の自動扉も、やはり私が見えないらしかった。人とぶつからぬよう、自転車や自動車に轢かれぬよう […]
第二百八十七夜   友人の声に顔を上げ、本を閉じてベンチを立つ。雑貨屋や服屋を見て回るつもりで待ち合わせをしていたのだが、予定より十分早く着いてから三十分も待たされた。 寝坊でもしたかと尋ねると、彼女は私の横を […]
第二百八十六夜   打ち合わせを終えて外に出ると、低い雲が垂れ込めて辺りは既に薄暗くなっていた。秋の陽は釣瓶落としとはこのことか。 一雨来る前にと急いで事務所へ戻ると、独り留守番を任せていた事務員の女の子が青ざ […]
第二百八十四夜   やや肌寒く湿った空気は木々と土の香りがして心地よい。時折輝く灯り以外は本当に真っ暗闇の中、太腿を軋ませながらペダルを漕ぐ。 自転車が先かカメラが先か、趣味が昂じて連休には夜通し走って海や山を […]
第二百八十二夜   夜勤明けの怠い身体をがら空きの下り電車に揺られてつい舟を漕いでいると、いつの間にか最寄り駅で車両の扉が開いていた。 閉じる扉に半ば挟まれながら慌ててホームへ出ると湿った熱気が全身を覆い、直ぐ […]
第二百七十七夜   夏休み最後の日曜というので、近所の仲の良い家族を誘って河原へバーベキュをしに行った。 幸い天候の不安もなく、家族連れ、職場の集まりと思しき集団、大学のサークルらしき若者達などでごった返す河原 […]
第二百七十六夜   炎天下、同僚達と昼食を摂って社屋へ戻ると、一人脇の植え込みの横を通って裏手の勝手口へ回り、煙草に火を点けた。社内分煙のため屋内は全室禁煙となっており、喫煙所は勝手口の外に設けられたここだけで […]
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