第六百九十七夜   いまひとつ納得の行かぬ思いで知人の店の扉を押すと、ドアベルのか細い音が店内に響いた。 互いに挨拶を交わすなり、 「何か嫌なことでも?」 と言われる。大したことでもないのに、そんなに露骨に表情 […]
第六百九十六夜   郊外の大型ショッピング・モールからの帰り道、夕陽に向かって走る格好になるのを嫌った夫がトイレ休憩を兼ねて街道沿いの広い駐車場を備えたコンビニエンス・ストアへ車を入れた。 橙色に光る西の空に目 […]
第六百九十三夜   買い物袋を手に帰宅すると、先に帰って夕飯の支度をしていた夫が、 「さっき、義伯父さんから電話があったよ」 とこちらを振り返った。 コンロの前に立つ彼の横で荷物を冷蔵庫に仕舞いながら、オジさん […]
第六百九十一夜   駅前の大きな公園で花火がしたいという子供達の付き添いからの帰り道、同じ方面の最後の子との別れ際に 「じゃあ、うちはこっちだから、またね」 と言ってコンビニエンス・ストアの角を折れた。 すると […]
第六百八十九夜   珈琲が落ちてゆくのを眺めながら頭の中で幾度目かの反省を終えるが、やはり原因には思い至らなかった。もはや怪奇現象とでも思って諦めるしかないのだろうか。 苦い珈琲を舐めながら暫く呆けていると、店 […]
第六百八十八夜   この酷暑の中を歩き回ったお陰で半ば熱中症になったのだろうか、頭に冷水を浴びると頬を伝う水が僅かな間にぬるむほど熱を持っていた。そのまましばらく頭にシャワを浴び続け、漸くすっきりして浴衣を羽織 […]
第六百八十七夜   会社の都合で少々早めに取らされた盆休みの昼下がり、大荷物を抱えて電車を降りて昔懐かしい道を辿った。マンションのエレベータ・ホールへ着く頃にはすっかり汗まみれだ。呼び出しボタンを押して鞄からタ […]
第六百八十二夜   知人の紹介で隣県から初めて受けた依頼の打ち合わせに初めて行った帰り道、少々悩んだ末に海岸沿いの遠回りではなく、行きに通った山中の最短ルートを戻ることにした。夏至から間もないから日が落ちるまで […]
第六百八十夜   うだるような夏の午後、いつも通り閑古鳥の鳴く店内でお手製のかき氷をスプーンで突付いていると、硝子の棒の触れ合う涼やかな音が店内に響いた。戸外の熱気と共に店へ入ってきたのは体格の良い短髪の男性で […]
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