第六百九十一夜
駅前の大きな公園で花火がしたいという子供達の付き添いからの帰り道、同じ方面の最後の子との別れ際に
「じゃあ、うちはこっちだから、またね」
と言ってコンビニエンス・ストアの角を折れた。
すると、
「そっちの道、嫌だ」
と娘が小さな声で拒否を示す。慌てて自転車を停めると、前カゴに乗せたバケツがカタリと急ブレーキに抗議する。
「嫌って何さ。ここを通らなかったら遠回りになるじゃない」
と返すと、まだ近くにいた娘の友達が、
「怖いんだよね」
と折り返してきてこちらのそばに自転車を停める。
「怖いって、何が?」
と重ねて問うと、不機嫌に口を尖らせる娘に代わって、友達が説明を始める。
数日前、娘達の通う塾が盆休みになる前日の夜のこと、長時間の講習を終えて夜の九時半を過ぎた頃にこのコンビニの前に来たという。
道すがらお喋りを楽しみたいと、さほど遠回りにもならない彼女が娘に付き合って、この先の道へ付いてきたのだが、少し進んだ先にある街灯の下に仏花の横たえられて供えられてあるのを見付けた。
LEDの街灯はその照らす狭い範囲の外はかえって暗く見えるくらいだし、月のない夜だったから事故の痕跡こそ見えなかったけれど、夕方に塾へ向かう際にはそんな花には気が付かなかったし、これまでここで事故が起こったという話を聞いたこともない。となると、やはり、帰ってくるまでの僅かな時間に事故があったのだろう。間を置かずに花が置かれたということは、即死だったのではないか。二人でそんなことを言い合って、大急ぎでペダルを漕いだのだそうだ。
それを聞いて、私は思わず笑ってしまう。人が亡くなっているのにと抗議の声を上げる娘だったが、
「ここで事故なんて起こってないのよ。お母さんね、あなたが塾に行った後に買い物に行ったのね」。
とそれを遮る。
あまり遅いと品揃えが悪くなるのだけれど、暑いのが嫌で買い物に出かける時間を遅らせたのだった。そしてその帰り道、ちょうどその街灯の近くにお盆の仏花らしき花束が落ちていた。きっと誰かが買い物袋から落としたものだろう。まだしおれてもおらず、
「それなら落とし主が気付いて取りに来るかと思って、街灯の下に置いておいたの」
と説明すると、娘達は紛らわしいことをと二人して口を尖らせた。
そんな夢を見た。
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