第百五十九夜   客が出ていったのを見計らって押し入れから出、分厚い樫の一枚板の卓の前の座布団の下を探って、平べったい板を取り出す。 昨日から宿泊している夫婦の、旦那のものを忘れて行かせたのである。何やら写真を […]
第百五十六夜   沢の脇の山道は、梅雨に入り色を濃くした木々の葉に覆われて、低い雲の下に延々と薄暗く濡れてくねくねと登っている。 季節毎に表情を変えるその道を、私は子供の時分からほとんど毎日通って学校へ行き帰り […]
第百五十一夜   午前中の外回りに区切りが付いて、どこかで昼食をと思いながら社用車に乗り込む。 曲がりくねった道を抜けて郊外の幹線道路へ出て、白いセダンの後に付いて走る。この手の道沿いには広い駐車場を備えたファ […]
第百五十夜   「チュン子、チュン子」。 そう名前を呼びながら裏山を歩き続けてどれくらい経ったろうか。喉も枯れ、脚も棒になって久しい。 それだけ探し回っても、妻の逃してしまったチュン子は見当たらなかった。広い裏 […]
第百四十三夜   木曜から溜めた洗濯物を、人がおらず、かと言って暗くもない早朝にコイン・ランドリィへ洗濯に出るのが、勤め始めてからの私の習慣である。 道端に咲き誇る躑躅や薔薇を横目に行きつけの店へ向かっていると […]
第百四十夜   夜の繁華街を歩いていると、酒に酔った男達が露骨な視線をこちらへ送る。中には声を掛けてくる者もいるが、勘違いされては困る。ここを狩場にしているのは私の方なのだから。 言い寄る男を「シャー」と威嚇し […]
第百三十九夜   友人の部屋に招かれて、友人四人で酒を飲むことになった。 男ばかりで集まるので適当な具材を買って鍋に放り込み、火が通るのを待たずに乾杯をする。 互いの近況報告などしているうちに鍋が煮え立ち、そろ […]
第百三十七夜   漫画喫茶のリクライニング・シートに背を預けながら目を閉じている。どうも、こういうところではしっかりと寝られない。うつらうつらと舟は漕ぐのだが、頭の何処かで、財布を取られはしまいかとか、明日寝過 […]
第百三十五夜   冬眠でなまった身体を沼のほとりで一頻り動かした後、叢で羽虫のランチ・タイムと洒落込んでいたところ、 「おい、蛙」 と竜女様からお呼びがかかって祠へ伺う。 恭しく頭を下げて 「ここに」 と申し上 […]
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