第三百十三夜   「単身赴任先から新幹線で戻って来たところでして」 「それでこの荷物ですか」 「ええ、ちょっと遅れましたが、クリスマスのプレゼントなんかも入っているもので」 そんな世間話をしながら、運転手と二人 […]
第三百十二夜   ファミリ・レストランとして最も忙しくなる夕食時が終わり、尻の長いお客が甘いものを追加してお喋りを楽しんでいるくらいで、片付けも注文聞きも暇になったタイミングで、 「あそこって、どうしてオレンジ […]
第三百十一夜   リビングのソファで上の娘が塾の宿題を解くのを後ろから眺めていると、廊下の戸が開いて柚子の香りが漂ってきた。 続いて寝間着姿の下の娘がロボットのように手脚をぴんと伸ばして登場し、妻がその髪をタオ […]
第三百十夜   トレイに載せたグラス二つを窓際の少女達へ運ぶと、 「ね、最近、生物室で授業あった?」 と聞こえてきた。 私のバイト先であるこの店は大手チェーンに比べて値段が安く、彼女達のような学生服姿の客も少な […]
第三百九夜   朝から電車に乗って適当な駅で降り、ぶらぶらと知らない街を歩いて写真を撮って回るのを趣味にしている。 今日も秋晴れの空の下、赤く実った万両の実やら、それをついばみに来る野鳥やらをフレームに収めなが […]
第三百八夜   アルバイトを頼んでいる子達のシフトの都合が上手く付かず、深夜から朝までの店番の後、六時間だけ休憩を挟んで昼からもう一度店に入らなければならなくなった。自宅はすぐ近いとはいえ、時間が短いので帰宅し […]
第三百七夜   部活の朝練習を終えてジャージ姿で教室へ駆け込んだのは、ホームルームの始まって二分ほど経過したところだった。顧問が時間にだらしなく、後片付けを担当する一年生が始業時刻に間に合わないのはいつものこと […]
第三百六夜   週に二度の買い出しのため、海風に車体を煽られながら軽自動車を走らせる。 もう何年も通り続ける道の両側は、しかしずっと殺風景なままだ。どうせ交わる車もない交差点の赤信号に掴まって車を停め、カー・ラ […]
第三百五夜   気が付くと、青白い蛍光灯の光る白い部屋に仰向けに寝かされていた。 腕には点滴の針が刺さり、ズボンのベルトとボタンとは外されており、顎を引いて体を見ると、初めて見る灰色のトレーナを着せられている。 […]
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