第三十八百夜

 

夜勤明け、通勤ラッシュを逆行して最寄り駅を下り、チェーン店の朝食メニュを平らげて帰途に就いた。

店内の暖気に慣れた体に吹く風に首をすくめながら、洗濯機、風呂、部屋干し、寝る、と帰宅後の段取りを考えて歩く。

公園脇の細道へ入ると車の走行音も届かず、子供達の登校時間もとうに過ぎ、住宅街は静まり返っている。時折生け垣のナンテンの実を小鳥が啄みに来る羽音と鳴き声がすると、自分の衣擦れが煩く感じるほどだ。

アパートの入口の郵便受けの蓋を押して中を覗き、チラシしか無いのでそのまま自室へ向かうと、
「またか」
と思わず声が出た。

ドアの中央に設けられた新聞受けに、新聞が刺さっている。これで三日目、いや、四日目だろうか。

新聞を雑に引き抜いて鍵を開け、玄関脇に荷物を下ろし、部屋の中央の卓袱台へ新聞を投げる。そのまま洗濯カゴを掴み、荷物の中の洗い物を追加して部屋の外へ出、洗濯機に放り込んで部屋に戻り、マガジン・ラックから昨日までの新聞を引き出して卓袱台に乗せる。

いずれも朝刊で四部、丁度月曜から毎朝配られていることになる。一面を見れば全国紙で、三年前の年度末に越してきた頃に数度勧誘に来たのを追い返したのを思い出す。

まさか誤配で料金を請求することもなかろうとは思うが、とってもいない新聞を毎朝配達されても気味が悪い。配達員が代わって勘違いの誤配をしているのなら、どこかで部数が足りずに叱られでもしているのではないかと余計な心配も湧いてくる。

一度気になると靴底にへばりついたガムのように気になって仕方がない。このまま放っておいても寝付きが良くなかろうと、風呂の前に最寄りの販売所を検索して電話を掛けることにする。風呂へ入ったら後はリラックスして寝るだけにしたいものだ。

コール音が鳴ると直ぐに中年女性の声があり、月曜からの誤配の旨を伝えると、
「ご迷惑をお掛けしまして」
と素直に謝罪される。こちらが損をさせられた訳ではないからと慰めてから、
「でも、どこかでうちの分の新聞が足りなくなっていたんじゃありませんか?」
と尋ねると、
「いえ、そちらのエリアでの不着は無いようですが……」
という。不着というのは新聞配達の用語で配り忘れの家が出ることらしい。

不思議に思い、最近配達員が代わったのではと尋ねても、そんなことはないという。

何ともすっきりしないまま電話を切り、服を脱ぎながら新聞を眺めて気が付いた。曜日こそあっているものの、日付が数日ズレている。どういうことかと新聞を手に取ってよく見れば、三年前の新聞だった。

そんな夢を見た。