第五百十四夜   事務所で店番をしていると、門から大型のバンが入ってきて事務所の前に停まった。返却のお客様だろう。 うちは小道具貸しの小さな会社で、都からほど近い田舎に倉庫を並べ、十数万店の小道具を管理している […]
第五百十三夜   仕事帰り、久し振りに酒をと誘ってきた同僚は、一杯目の生ビールをギュッと目を閉じて味わった後、開口一番、聞いて欲しい話があると言い、胸ポケットの財布から一枚の写真を取り出した。 曰く、疫病騒ぎの […]
第五百十二夜   吊り革に体重を掛けながら電車に揺られていると、妻からメッセージ・アプリに連絡が入った。 後どのくらいで帰るのかというので、最後に通り過ぎた駅を思い出し、そこから逆算するに後十分程で最寄り駅だと […]
第五百十一夜   緊急事態宣言が解除されて間もなく、兄から合同コンパ、というよりはもう少し真面目なお付き合いを前提としたパーティのメンツを集めてほしいと、先輩から連絡が来た。 ここ暫くはそういうこともなかったが […]
第五百十夜   風呂上がり、バスタブの中で体を拭き、絞った髪をタオルで巻き上げて部屋着を着て洗面台を見ると、蛇口の横の眼鏡立てに眼鏡がない。 自宅で過ごす際には風呂と睡眠以外で眼鏡を外す習慣がない。だからわざわ […]
第五百九夜   冷蔵庫から昨晩買っておいたサンドウィッチを取り出し、瞬間湯沸かし器でインスタント珈琲を淹れて簡単な食事を摂っていた。 部屋に積まれた段ボールを眺めながら、今日のうちに衣食に関するものくらいは荷解 […]
第五百八夜   秋の陽は釣瓶落としとはよく言ったもので、夕焼けの残るうちに入った商店街の八百屋と肉屋とで買い物を済ますと、辺りはすっかり暗く、アーケードの向こうで太陽を追いかける細く白い月がくっきりと浮かんで見 […]
第五百七夜   東京方面へ高速道路を南下していると、昼前にこれから向かう先で事故渋滞の起きているとの報せが入った。 深夜からほとんど走り通しで距離は稼げていたし、期日までの猶予は十分にある。そこらのサービス・エ […]
第五百六夜   帰宅の電車に揺られながら、疲れ目を癒やすべく目を閉じて手三里のツボを押していると、近くに座った学ラン姿の二人の、ちょうど声変わりの時期らしい声が耳に入ってきた。 「お前、いつもそれ食ってるよな」 […]
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