第五百十一夜
緊急事態宣言が解除されて間もなく、兄から合同コンパ、というよりはもう少し真面目なお付き合いを前提としたパーティのメンツを集めてほしいと、先輩から連絡が来た。
ここ暫くはそういうこともなかったが、疫病騒ぎの起こる前にはよく頼まれたものだったと思い出す。しかし、自分はもうめっきり落ち着いて、そういう女性の心当りが無いと返すと、
「お前に頼むというよりは、お前の妹さんの方に頼みたいんだ」
と言う。言われてみれば以前も、妹の伝手で女の子を集めて欲しいとのことだった。
どういうことかと尋ねると、妹が音大に通っていることが重要らしい。歌だとか楽器だとか、そういう高尚な趣味があったのかと尋ねると個人的な好みの問題ではないそうで、
「うちの会社って、バイオ関係だろ?」
「バイオっていうか、酒造ですよね」
「だからバイオだろ。随分昔からいろんな分野の研究もしてるの。だからさ、入社試験にも歌があるし、配偶者も最低限は音痴じゃダメっていう伝統みたいのがあるのよ」
と、訳のわからないことを言う。
「どういうことですか?」
と尋ねると、
「俺も入社するまで聞いたこともなかったんだけどさ、昔は歌の下手糞な奴に『糠味噌が腐るからやめろ』みたいに言ったんだって。日本じゃなくても、ワインを寝かせるときに良い音楽を聞かせると味が良くなるとか言うだろう?」
と、余り真面目でもない口振りで、
「元々目に見えないものを扱う業界で、今だってほんのちょっとの油断が大きな失敗に繋がるわけだからさ、そんな迷信を信じているわけではないけれど、それでも何となく蔑ろには出来ないというか、積極的に否定するきにはならないもんなのよ」
と笑うのだった。
そんな夢を見た。
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