第五百十二夜

 

吊り革に体重を掛けながら電車に揺られていると、妻からメッセージ・アプリに連絡が入った。

後どのくらいで帰るのかというので、最後に通り過ぎた駅を思い出し、そこから逆算するに後十分程で最寄り駅だと伝える。直ぐに返事が返って来て、駅前の量販店に居るからそこで落ち合いたいという。

米ならつい最近買ったばかりで、荷物持ちが必要になるようなものを買う予定があったかどうか、心当たりがない。

何か重いものでも買うのかと尋ねると、そうではない、一人で家に入れないのだという。理由を尋ねると、十分程前に帰宅した際、無人のはずの居間のテレビが、また勝手に点いていたのだという。

緊急事態宣言が解除され、夫婦揃って出勤することが多くなってから、帰宅すると今のテレビが勝手に点いていることがあった。幾度かは気味悪がったものの、猫がリモート・コントローラのボタンを押して遊んでいる姿を見て原因が判明し、二人で笑ったものだった。どうやら爪でゴムのボタンを押す感覚が好みだったらしい。似たような感触の玩具を探して買ってやったものの、今も相変わらず人目のないときにはコントローラを弄っているようで、ボタンに爪の跡が増えている。
「あれならクロの仕業だったじゃない」
とメッセージを送ると、
「あの子は今朝から入院中でしょ」
と即座に返事が返ってくる。

そうだった。昨日帰宅してみるとクロの歩き方がおかしく、朝一番で医者へ連れて行くと前足が脱臼していると言われた。猫の脱臼は一度入れても直ぐに外れる場合が多いそうで、暫く固定するために入院中なのだった。
「今までのだってクロの仕業じゃなかったかも」
とメッセージが続いたが、
「いや、今朝の出掛けに消し忘れただけかもしれないじゃない」
と返すが、出勤前にテレビを消したかどうか、判然とは思い出せなかった。

そんな夢を見た。

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