第八百十二夜

 

 キャンプ趣味の友人達と三人で連れ立って山へ行こうと、車二台に分かれて金曜の深夜に高速道路を走った。運転免許は皆が持っているが、一人がバンを所有していて皆の荷物を詰め込めるので、人間が一人余る。重量分散だと言って別の一台に二人で乗って目的地まで移動するのが三人の習慣になっていた。
 今日も例によって私は友人の車に乗り込んで、秋めいて高い夜空を眺めている。すると運転席の友人がルーム・ミラーを顎で示しながら、
「おい、あいつの車、見えなくなったぞ」
と心配そうに言う。
 三時間ほどの旅程の目的地の半ばほどだろうか、渋滞もなく見通しの良い高速道路内を振り返って見てみるが、確かに彼の銀色のバンの姿は見えない。いつ頃から見えなくなったのかと尋ねると、言われてみればわからない、五分か、十分か、三十分か、と曖昧な答えしか返ってこない。
「なら用でも足しに、さっきのサービス・エリアに寄ったんだろう」
と言うと、
「ならじきに、連絡を寄越すかな」
と運転席からも同意の声が上がる。あちらの運転中に携帯電話を鳴らすのも危なかろうと、こちらから連絡はせずに待つことにする。
 と、十五分ほど経って私の携帯電話が鳴る。
画面に表示された発信者は案の定バンの友人だが、通話を開始するなり、
「すまん、よくわからんがもう着いた」
と困ったような声を出す。何処に着いたのかと問えば目的地のキャンプ場で、トンネル内のカーブで先行する私達の車を見失ったと思ったら、トンネルを抜けても一向に見つからない、それどころか直ぐに高速を降りるようにカーナビに促され、二十分ほど前にインターチェンジを抜けて今キャンプ場の駐車場に車を停めたところだという。
 高速道路に乗ってから、まだ一時間半ほどで、通常三時間の道程をどんなに飛ばしても到着出来るはずがない。隣の運転席からも、
「追い抜かれたら流石に気付く。何をからかっているんだ」
と呆れ声が漏れるが、幸い必要な道具は彼の車にある、
「暇をしていてもしようがないから、周りに気を使いながらテントを張っておくよ。それで、嘘じゃないとわかるだろう」
と言って通話を切る。その声にむしろ困惑の色の濃いのを聞き取って、運転席の友人と顔を見合わせた。
 そんな夢を見た。

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