第五百八夜

 

秋の陽は釣瓶落としとはよく言ったもので、夕焼けの残るうちに入った商店街の八百屋と肉屋とで買い物を済ますと、辺りはすっかり暗く、アーケードの向こうで太陽を追いかける細く白い月がくっきりと浮かんで見えた。赤提灯にも久し振りに火が入り、活気が戻りつつあるらしい。

撫で肩を擦り落ちそうになる買い物袋を肩に掛け直しながら家路に就くと、団子屋の店先で店番のご婦人が、常連らしい老婦人と立ち話をしている。

その横を通り掛かろうとしたとき、座敷席になっている店の中から白黒の斑模様の猫が一匹、すたすたと歩いて出て来る。
「あら、ハナちゃん、お出掛けなさるの?」
と老婦人が声を掛けると、猫はちらりと彼女を見上げ、
「ニャ」
と短い返事をして、人混みの商店街を相変わらずすたすたと歩いて行く。それを見送ったご婦人が、
「ほら、久し振りにまたお仕事がはじまったのよ」
と言う。

ハナちゃんのお仕事とは一体何かと訝しみながらその後を付いて少し歩くと、商店街の端近くにある寿司屋に着く。ハナちゃんは磨り硝子の引き戸の脇に行儀良く座り込み、前を通り掛かる人を上目遣いに見つめては見送っている。

なるほど、寿司屋の呼び込みらしい。今度財布に余裕のある時には、きっと店頭の折り詰めを買うからね、と心の中で謝罪しながらスマート・フォンを取り出して、こちらを見上げるハナちゃんの姿を撮影させてもらった。

そんな夢を見た。