第五百四十七夜   日課というほどのこともない単なる朝の習慣として、顔を洗い、軽く歯を磨くと、カーテンを開けて窓の外を眺める。 このアパートの二階の角部屋には学生の時分から随分長く住んでいるのだが、お隣の古い一 […]
第五百四十六夜   アルバイト先のバックヤードに、妙なところがあった。 カウンタから裏に入ると細長い事務所があり、その先に更衣室があるのだが、その扉は全開状態で固定され、扉の枠にレールを取り付けてカーテンで仕切 […]
第五百四十五夜   夕刻、習い事から帰宅した娘が居間を通り掛かると、肩口で切りそろえた髪がやけにぼさぼさと乱れていた。 つい先日、春一番が吹いたという話は聞いたけれど、午前中に妻の買い物に車を出したときには穏や […]
第五百四十四夜   立つ鳥跡を濁さずの高潔な精神の持ち主というわけではないけれど、一度始めてしまえば単純作業もさほど苦に感じぬ質なもので、三月中に引き上げる部屋の大掃除に取り掛かると、家具の陰になっていたような […]
第五百四十三夜   ハンカチで手を拭きながらトイレから出て売店を見ると、結構な人数が並んでいた。トイレでも少々時間を食ったものの、まだ多少の余裕はある。遅くとも本編前の広告の途中では戻れるだろう。 スマート・フ […]
第五百四十二夜   マニュアル通りに本社への連絡等を終え漸く一心地着いて珈琲を淹れ、傍らの警官達に一杯どうかと勧めると案の定「勤務中だから」と断られた。 案の定というのは、私が彼等の元同業者だからのことで、彼等 […]
第五百四十一夜   折角の休日だというのに寝覚めの悪い朝だった。十年ほど前に老衰で死んだ犬が夢に出たのだ。いや、ただ夢に出るだけならば何の問題もないどころか、内容に依っては嬉しいくらいのことなのだが、内容がよろ […]
第五百四十夜   「ようやく春らしい陽気に恵まれるでしょう」との気象予報士の言葉を信じ、朝食を済ませて直ぐ一週間の洗濯物をやっつけてベランダに干すと、ここのところ続く窮屈な日常の息抜きにとドライブに出掛けた。 […]
第五百三十九夜   早番の勤務を終える十分前、いつも通りに遅番の者とフロント業務の引き継ぎをしていると、その脇で電話が鳴った。 その呼び出し音の音色でそれが内線だとわかり、最も子機に近い私が反射的に受話器を取る […]
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