第五百七十夜

 

顧問が急病で部活が半分休みになった土曜の午後、部活仲間と高校近くで急に出来た暇を潰して最寄り駅へ帰ってくると、ちょうど辺りは夕焼けに染まっていた。

額に手を翳して西日に目を細めながらロータリィへ向かうと、クラクションを鳴らした真っ赤な小型車が助手席のウィンドウを下ろしている。

開いた窓へ茶色い紙の買い物袋を差し入れると、運転席の小柄な女性が受け取って助手席へ置き、代わりに銀行の封筒を差し出す。受け取って中を見ると、渡した荷物の十倍の金額の紙幣が入っていて驚く。その様子を見て、
「手間賃だから」
と笑うこの女性は三つ離れた私の姉で、子供の頃からオカルト趣味の変人で、これまでの経験上、基本的には関わり合いになりたくない。昨年大学へ通うのに都市部に出て一人暮らしを始めたが、今では繁華街の雑居ビルの地階に入っていたバーが潰れた跡を借りて怪しげな店を開き、結構儲かっているらしい。
家まで送るから乗れという彼女の誘いを丁重にお断りして、しかしどうしても気になった疑問が口を突いて出た。
「それ、そんなに価値があるの?なんで?」。

「それ」というのは言わずもがな、茶色い袋の中身である。部活仲間と暇潰しに遊びに行った公園で、たまたま蚤の市、フリーマーケットが開かれていた。漫画か参考書、或いは筋トレ関連のグッズでも安く売られてはいまいかと冷やかし半分に見て回っていると、急に姉から電話が掛かってきた。

不審に思いながら電話に出ると、開口一番、
「今、あんたの近くに青い服を着た金髪の女の子の人形がない?」
と尋ねる。辺りを見回すと、小学校高学年くらいの女の子を連れたお母さんが広げたピクニック・シートにちょこんと座ってこちらを見ている。特に値札もなく、商品として並べられているかは分からないものの
「ある」
と伝えると、今何処で何をしているのか、持ち合わせは幾らあるかと尋ねられ、それらに答えると次は店主の女性に電話を替われと言う。事情を話して電話を受け取って貰うと、女性は暫く電話の向こうの姉と話した後、
「お姉さんに、大切にしてもらってくださいね」
と人形を茶色い袋に詰め、私の財布にあった中では最高額の紙幣を要求した。女性から返却された電話に文句を言うと、損はさせないから大人しく払っておけ、今日の夕方には地元に戻ってお駄賃をやるからというので大人しく従って、代わりに袋を受け取った。

友人達に何の趣味かとからかわれ、財布の中身もほぼ空っぽと、実に居心地のわるいまま暫く過ごして帰ってきたわけだが、その迷惑料を加味するにしたって「お駄賃」なんて額ではない。
半ば愚痴のような疑問をにこにこと笑顔で聞いていた姉はしかし、
「世の中、知らない方が良いこともあるものなのよ」
と、立てた人差し指を唇に当てて見せ、小遣いで派手な遊びはしないようにと釘を刺してロータリィを出ていった。

そんな夢を見た。