第六百九十九夜   電車を降り、改札を出ると駅前のアスファルトが湿っていた。どうやら珍しく夕立でも降ったようだ。 ところどころの凹みにできた水溜まりを踏まぬよう歩いて、夕飯を買いに駅前の量販店へ入る。温度も湿度 […]
第六百九十八夜   秋の大会に向けた合宿から帰ってきた妹が、溜まりに溜まった夏休みの課題を手伝って欲しいとプリントと教科書とを持って部屋を訪ねてきた。と言ってもベッドと勉強机とでいっぱいになってしまう私の部屋で […]
第六百九十六夜   郊外の大型ショッピング・モールからの帰り道、夕陽に向かって走る格好になるのを嫌った夫がトイレ休憩を兼ねて街道沿いの広い駐車場を備えたコンビニエンス・ストアへ車を入れた。 橙色に光る西の空に目 […]
第六百九十五夜   暦の上では秋ながらまだまだ猛暑日の続く早朝、まだ気温の上がらないうちに家を出た。それでもなお、駅に着いてホームへ上がる頃には額から汗が流れるから参ってしまう。 肩掛けの鞄を浮かせ、尻のポケッ […]
第六百九十四夜   この炎天下の中、しばらくぶりに趣味の自転車を走らせたくなった。しかし焼けたアスファルトの上をというのも流石に嬉しくないということで、電車で近場の山まで移動した後、木陰に期待してその山道を登る […]
第六百九十三夜   買い物袋を手に帰宅すると、先に帰って夕飯の支度をしていた夫が、 「さっき、義伯父さんから電話があったよ」 とこちらを振り返った。 コンロの前に立つ彼の横で荷物を冷蔵庫に仕舞いながら、オジさん […]
第六百九十二夜   「なあ、この髪の毛、心当たりあるか?」。 何年かぶりに父の口からその言葉を聞いたのは、疫病騒ぎ以来久し振りに帰省した翌日だった。 人間の記憶というのは不思議なもので、たった一言で十年近くも前 […]
第六百九十夜   明日から三日遅れの盆休みとなる仕事帰り、向こう数日分の食料を求めて大型量販店の自転車置き場へ入ると、普段よりずっと空いていた。 ――ああ、やはり世間は盆休みなのだな と納得しながら鍵をかけて入 […]
第六百八十九夜   珈琲が落ちてゆくのを眺めながら頭の中で幾度目かの反省を終えるが、やはり原因には思い至らなかった。もはや怪奇現象とでも思って諦めるしかないのだろうか。 苦い珈琲を舐めながら暫く呆けていると、店 […]
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