第六百九十夜

 

明日から三日遅れの盆休みとなる仕事帰り、向こう数日分の食料を求めて大型量販店の自転車置き場へ入ると、普段よりずっと空いていた。
――ああ、やはり世間は盆休みなのだな
と納得しながら鍵をかけて入店し、惣菜や生鮮食品を扱う地下へ続くエスカレータに乗ろうとして驚いた。エスカレータは停止してその先は真っ暗だ。通せん坊をするように真ん中に立てられた一枚のポスターによると、改装のために数日前から地下は閉鎖されているそうだ。

仮移転した売り場の地図をスマート・フォンで撮影し、それを眺めながら人気のない売り場を歩く。とりあえず上の階から回って降りてくるのが効率的かと思い、ちょうど近付いてきたエレベータ・ホールで上向きのボタンを押して箱の降りてくるのを待つ。

ほどなく柔らかな電子音のチャイムが鳴って口を開けた箱から降りてくる人の居ないのを確認して無人の箱の中へ乗り込み、二階のボタンを押し、売り場の移転位置を確認しながら到着を待つ。

再び電子音が鳴ってゆっくりと扉が開き、スマホから顔を上げる。と、目の前に真っ暗で広大な空間が広がっている。視界の右端に、エスカレータの隙間から漏れた光に照らされたらしき僅かな床と、ずっと奥の方に非常口だろう緑色の標示が遠く見える以外に何の灯りもない暗闇だ。こんな時間に改装の作業員がいるわけもなく、誰の気配もない。遠く上階で流れている音楽が聞こえてくるのみだ。
――間違って下りのエレベータに乗ってしまったか。
多少不気味に感じつつも、特に何が起きたわけでもない。操作盤の二階ボタンが点灯していることを確認して「閉」ボタンを押し、階数表示を眺めながら到着を待つ。

地下で呼び出しボタンが押されていたのだろうか。いや、それなら自分の待っていた一階で扉を開くのはおかしい。そもそも地下には誰一人居なかったではないか。

二階に着いて箱を降り、目的の売り場へ歩く途中、プラスチック製の買い物カゴを手に取る。

上階で下るボタンを押して呼び出し、一階と地下のボタンとを押せば、一階で停まった後そのまま地下へ降りるだろう。ただ、自分が乗ったときに箱の中が無人だったのは確かで、そんな子供の悪戯じみたことをする客がこんな時間にいるとも思われない。

そんなことを考えながら歩いていると、便所の脇に赤い光を放つ消火栓のランプが目に入る。そういえば、地下にも似たような位置にそれがあるはずだが、赤い光には気が付かなかった。非常口の緑色は確かに見えたが、誤って電源を落としていたのか、そこも工事中だったのか。あるいはあの暗さで見えなかっただけで資材でも置いてあり、胸の高さほどの赤色灯はその影になって見えず、頭上に掲げられた非常口の案内板だけが見えたのだろうか。

気にはなるが、もう一度降りて確かめるほどのことではない。確認をしないのならこれ以上あれこれと考えても意味はなかろう。そう気を取り直して眼の前の惣菜に集中することにした。

そんな夢を見た。