第三百二十八夜   行きつけの床屋で散髪をしていると、 「いや、参ったよ」 と店主が話し掛けてきた。住宅街にぽつんと店を構える古い床屋で、自分が学生として上京してきた頃からもう十年以上通っている。 「前に、アパ […]
第三百二十五夜   カップになみなみと注いだココアを片手に書棚を見回し、雑誌を手に取って指定された番号の席を目指してそろそろと歩く。 間もなく扉の空いたままの座敷席を見つけ、荷物を置いて靴を脱ぎ、背後の扉を閉め […]
第三百二十三夜   仕事の都合で二週間だけ、急に他県へ赴任することになった。従業員にインフルエンザが蔓延して仕事が回らなくなったのを、各地から人員を掻き集めて補うためだ。 僅かな期間の赴任だが、それなりの人数を […]
第三百十九夜   正月気分も抜け、年度末へ向かう慌ただしい日常生活に戻ってしばらくしたある夜、いつものジャージにいつものシューズを履いてジョギングへ出掛けた。 家から最寄り駅の方へ二分も走ればそれなりに整備され […]
第三百十二夜   ファミリ・レストランとして最も忙しくなる夕食時が終わり、尻の長いお客が甘いものを追加してお喋りを楽しんでいるくらいで、片付けも注文聞きも暇になったタイミングで、 「あそこって、どうしてオレンジ […]
第三百六夜   週に二度の買い出しのため、海風に車体を煽られながら軽自動車を走らせる。 もう何年も通り続ける道の両側は、しかしずっと殺風景なままだ。どうせ交わる車もない交差点の赤信号に掴まって車を停め、カー・ラ […]
第百九十五夜   雨の止んだのを見計らい、秋雨続きで溜まった洗濯物を抱えて、アパートから徒歩数分のコイン・ランドリィへ向かう。 人気のない店内に入ると、一人暮らしの一週間分の衣類を洗濯機へ放り込む。洗濯機を回し […]
第百九十三夜   連休前、比較的早い時間に仕事が片付いて安アパートへ帰宅できた。 肩に掛けた鞄の中の鍵を手で探りながら、蛍光灯の照らす共用廊下へ入ると、私の部屋の前に中年の男女が立っていて、ヒールの音にこちらを […]
第百八十九夜   大学のサークルで参加したイベントの後片付けに手間取って、終電を逃した。 しかし、家の近い友人を持つ者も少なくなく、始発の動き始めるまで居場所の無いのは私を含め五人で、駅から近い二十四時間営業の […]
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