第百八十九夜

 

大学のサークルで参加したイベントの後片付けに手間取って、終電を逃した。

しかし、家の近い友人を持つ者も少なくなく、始発の動き始めるまで居場所の無いのは私を含め五人で、駅から近い二十四時間営業のファミリ・レストランで朝を待つことにした。

客の少ない店内に案内されて、ドリンク・バーのサーバから近い席を選んで座り、思い思いのメニュを頼む。駄弁る、携帯ゲーム機を弄る、スマート・フォンを弄る、運ばれてきたものを食べる、窓外に雪が降るのが見える、雪の降らない地方の出身者がはしゃぐ、すぐに飽きて追加の食事を頼む。

ウェイトレスが運んできたピザを取りながら一人が言う。
「客が少ない」。
確かに、自分達より後から来店したものは誰も居なかった。サーバがレジの真横にあるので、来店者がいれば気付かぬはずがない。

が、自分達が店に入った時点で既に深夜で、おまけに雪の降るほどの冷え込みだから、さほど不思議でもなかろう。

そうこうするうちに時計の針が進み、電車の動く時間が近付くと、皆徹夜の疲れの割にきびきびと荷物をまとめ、会計を済ませて店を出る。
「ちょっと」。

先頭の者が広げかけた折り畳み傘を横に突き出して皆の進路を遮る。
「これ、この足跡おかしくないか」。
そう言う彼の視線の先には、三角形とその後ろに小さな丸い点が一組になって、薄く積もった雪の上に点々と並んでいる。
「いや、単にハイヒールの足跡だろう」
という声に同意するより早く、
「いや、この足跡、店に向かって来てるだろ、おかしいだろ」
と先頭がまくしたてる。

雪が降り出したのは自分達が入店してしばらく後のことである。自分達より後に入店したものは居ない。雪の上に残されたこの足跡は、店に向かって一直線に並んで、しかも引き返した跡が無い。

一人が「誰か暇な奴の悪戯だろう」と言って歩き始めるが、誰もそのハイヒールの足跡を踏もうとしなかった。

そんな夢を見た。