第二百八十六夜   打ち合わせを終えて外に出ると、低い雲が垂れ込めて辺りは既に薄暗くなっていた。秋の陽は釣瓶落としとはこのことか。 一雨来る前にと急いで事務所へ戻ると、独り留守番を任せていた事務員の女の子が青ざ […]
第二百六十一夜   締め切った雨戸を打つ雨粒の音を聞きながら、普段呑まぬ芋焼酎を片手に普段見ない古い邦画を眺めていた。 母方の祖父母が週末を旅行して家を空けるので、その留守番役として白羽の矢が立ったのだ。いつ建 […]
第二百三十九夜   台所の背後にある扉を引き開けると、右手に鏡付きの洗面台、正面にカーテン付きのバスタブ、左手に便器が配置されている。私の借りている部屋のユニット・バスのそれとは配置が異なり違和感を覚えながらズ […]
第二百三十二夜   私の開けた後部座席のドアから乗り込むなり、 「運転手さん、コレ」 と、スーツ姿の女性が派手な花柄の紙袋の紐を摘むようにして持ち上げ、こちらに示した。 顔見知りのお客様というわけでもないから、 […]
第二百一夜   風呂上がりの濡れた頭を拭きながら暗い廊下を歩いていると、年末年始の休みに帰省して来た兄の部屋の扉の隙間から光が漏れていた。父と二人して酔いつぶれたのを母と二人で運んでやったのだが目を覚ましたのだ […]
第百八十七夜   父方の祖母の法事で、記憶にある限り初めて父の実家へやってきた。その祖母というのがどうも母と折り合わず、私の物心付くより前に大喧嘩をして以来、ほとんど往来が失くなったのだという。 定型句のように […]
第百八十一夜   仕事を終えて帰宅し、レジ袋から酒とツマミを取り出して座卓に広げる。 独り酒に静寂は心がささくれるのでテレビを点ける。何が見たいというのではないが、恐怖映像特集とやらを見つけ、まだまだ厳しい残暑 […]
第百五十一夜   残業をしていると、携帯電話に友人から、 「家に帰りたくない」 と連絡が入った。三ヶ月ほど前に挙式したばかりの男の台詞ではない。 「自分にそういう趣味はない」 と返すと、話だけでも聞いてくれと食 […]
第百七十四夜   夏の終わりにシーズンをやや外れて安くなった学生向けのプランを利用した旅行を友人から提案され、なんとか金と時間の都合を付けて参加することになった。 しかし、ターミナル駅の高速バス乗り場へ早朝に付 […]
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