第百八十一夜
仕事を終えて帰宅し、レジ袋から酒とツマミを取り出して座卓に広げる。
独り酒に静寂は心がささくれるのでテレビを点ける。何が見たいというのではないが、恐怖映像特集とやらを見つけ、まだまだ厳しい残暑にはちょうどよいかとチャンネルを合わせる。
さてとクッションに腰を下ろしかけて、せっかく自宅で飲むのに化粧をしたままというのも息苦しい、さりとて風呂に入るのも億劫だということで、部屋着に着替えてメイクだけ落とそうと洗面台に向かう。
居間の奥のテレビから流れてくる、いかにもおどろおどろしいナレーションを聞きながら化粧を拭き落とす。続いて洗顔フォームを泡立てて目を閉じる。鼻と額に泡をなじませながらナレーションを聞いていると、
「ああ、俺、こういうにんぎょうにがてなんだよなぁ」
と、少々情けない男性の声が聞こえてきた。しかし、その位置がおかしい。テレビは居間の奥にあるが、その反対側のベッドからのように聞こえたのだ。
一人暮らしのこの部屋に、他に誰がいるはずもない。背筋に寒いものを感じながら洗顔を切り上げて、恐る恐る居間を覗く。誰もないない。
きっと番組出演者の声だろう。そう思うことにして卓の前のクッションに腰を下ろし、ベッドからクマのぬいぐるみを抱き寄せて脚に挟んでから梅酒の缶を開けた。
そんな夢を見た。
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