第二百一夜

 

風呂上がりの濡れた頭を拭きながら暗い廊下を歩いていると、年末年始の休みに帰省して来た兄の部屋の扉の隙間から光が漏れていた。父と二人して酔いつぶれたのを母と二人で運んでやったのだが目を覚ましたのだろうか。そう思った途端に、大きな鼾が扉の向こうから聞こえてくる。

寝ているのなら灯は不要だ。小さく扉を開けて、スイッチを手探りで見つけて消す。その刹那、
「うわ」
と兄が大きな声、半ば悲鳴のような声を上げて飛び起きる。夜中になんて声をと咎めると、とにかく灯を点けろと言うので点けてやる。

鼾が凄かったから寝ているものと思ったのだがと謝ると、彼は、
「暗い中では寝られないんだ」
と蛍光灯に照らされた青白い顔を左右に振る。

大学入学で実家を出るまではそんな癖は無かったように記憶しているがと問うと、何時からか、暗がりで寝ると般若の面のようなものが目の前に現れて眠れない、寝ているときに暗くなった場合でも、途端にそれが現れて飛び起きるのだと言う。
「般若って、恨みを持った女の面だっけ?誰かに恨まれるようなことでもしたんじゃないの?」
と茶化すと、彼は柄にもなく、
「ああ」
と気の抜けた返事をして黙り込んだ。

そんな夢を見た。

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