第三百五十五夜   梅雨らしく判然としない昼下がりの空の下、明日か明後日か晴れるまで待てと止めるのも聞かずに竿とクーラ・ボックスを持って飛び出していった息子が、日の傾いてザアザアと音を立てて降り出した雨の中、息 […]
第三百五十四夜   五時を知らせる地域放送の『遠き山に日は落ちて』から遅れること十分、小学校低学年の息子が息を切らして帰宅した。 何故約束通りに帰ってこないかと叱言を言う私を遮って、 「幽霊、幽霊」 と大声で繰 […]
第三百五十三夜   連休が明けて、地元の不動産屋から連絡が入った。二人の子供も大きくなって少し手狭になってきたので、彼らが転校する必要のない範囲でもう少し余裕のある物件は無いかと年始頃に相談をしていたのだ。 仕 […]
第三百五十二夜   外出自粛要請を受けて間もなく私が在宅勤務をすることになったのを知った看護師の友人から、しばしばネット回線を使った音声通話が掛かってくるようになった。 彼女はもちろん出勤をするのだが、非番にな […]
第三百五十夜   バイト暮らしに便利だと選んだ繁華街の裏手の古いアパートの、猫の額ほどの小さな庭に、今更斧を振り回す隙間も倒れる場所も無いほど立派なクヌギが生えている。 その根の大きく盛り上がった下に、誰が掘っ […]
第三百五十夜   母が出掛けた後、三つ離れた妹と二人きり、学校ごっこを始めた。 お互いに真面目な顔をして名字を呼び合い、ハイと答え、二、三秒にらめっこをした後堪えきれずに吹き出す。出欠確認の点呼のつもりだ。 背 […]
第三百四十九夜   日の高くなる前に庭の草を毟り、風呂でその汗を流し、さてそろそろ昼食の準備に取り掛かろうかと、蕎麦を茹でるべく鍋に水を張って火に掛けたときのことだ。 ワンワンと二度、犬の鳴くのが聞こえる。隣で […]
第三百四十八夜   新型肺炎の影響で、うちの部署もテレ・ワークとやらを始めることになった。 といって、元々がPCオタクだらけの職種であり、上司はともかく新入二年目の下っ端たる私など、下りてきた設計通りのプログラ […]
第三百四十七夜   例年ならば潮干狩りの盛んな時期なのだが、市がコロナ・ウィルス対策で海浜公園を立ち入り禁止にした。 今日は我が家がその周囲を「朝の散歩」する当番で、ものぐさよりは感染への恐怖心で散歩を拒否した […]
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