第三百四十八夜

 

新型肺炎の影響で、うちの部署もテレ・ワークとやらを始めることになった。

といって、元々がPCオタクだらけの職種であり、上司はともかく新入二年目の下っ端たる私など、下りてきた設計通りのプログラムを書いて上げるだけだから、開発環境さえ手元にあればそれで済む。オフィスからPCを自宅に送り、ネット・ワークを設定するだけのことで、出社せずとも以前と変わらぬ仕事が出来るようになった。

始業時刻にヴィデオ・チャットで朝礼の真似事をし、後は出社しているときと変わらず、椅子に座ってキィ・ボードを叩くだけだ。
一体何の意味が有るのか疑問に思いつつ朝礼に参加する。画面に並んだ顔触れは、皆会社にいるときと同様に髪を整え、カジュアルながら一応ビジネス・スタイルを整えている。やはり自宅では、なかなか仕事モードという気分にならない。そのスイッチを入れるために、きっとわざわざ着替えているのだろう。

そんなことを考えていると、上司の映る画面の背後で、茶色いキャット・タワーの中段で、小さく何かが動くのが見える。画面を拡大して注視すると、丸くなって眠るサバトラの猫が時折耳をぴこぴこと動かしている。

艶のある毛並みが呼吸に合わせて上下するのを眺めていると、急に画面が暗転する。いつの間にか朝礼が終わったらしい。

作業に取り掛かる前に、仕事用のチャット・アプリを開き、
――猫を飼ってらしたんですね
と上司へ送る。ややあって、
――すまん、珈琲を取りに行っていた
――君には話したことなかったかな
と返信があり、続いて数枚、先程見たサバトラの猫の寝姿や、餌を食べる姿の写真が送られてくる。
――どうしてわかったの?
との質問に、後ろにキャット・タワーが映っていたからと返すと、
――ああそうか。なかなか捨てられなくてね
と帰ってきて、疑問に思う。

捨てるというのはどういうことだろう。買い替えるということだろうか。確かに多少くたびれてはいたが、猫が使うものだからあちらこちら布が破れていても、麻縄がほつれていても仕方がないじゃないか。

ややあって、
――もうコイツが死んで、三年になるんだけど、次の猫を貰う気もないし、片付けないとなぁ
と返信が届いた。

そんな夢を見た。

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