第三百五十夜

 

母が出掛けた後、三つ離れた妹と二人きり、学校ごっこを始めた。

お互いに真面目な顔をして名字を呼び合い、ハイと答え、二、三秒にらめっこをした後堪えきれずに吹き出す。出欠確認の点呼のつもりだ。

背の低いガラスの天板のテーブルに妹と向かい合って座り、学校指定の課題を並べる。出勤前に母が用意しておいてくれたものだ。

間もなくテレビ台の上のタブレットが、鐘の音を鳴らす。これも母のセットしてくれた学校のチャイムの代わりで、授業の開始と終了の時刻に合わせて五時限目まで繰り返し鳴るようになっている。

一時限目、二時限目と遊びたがる妹をなだめたり質問に答えたりしながら過ごしているうちに、そろそろ用を足したくなってくる。

チャイムが鳴ると同時に席を立ちトイレへ向かうと、背後から妹の「ずるい」と私を批難する声が飛んでくる。彼女もそろそろ用を足したかったのかと思いながらも、ほんの一分も掛からないからとそのままトイレに入る。

水を流して流しで手を洗い、部屋に戻ると妹がいない。

おやと思って玄関を見ても、鍵は閉まったままでどこかへ出掛けた様子はないし、そもそもそれなら音と気配で気付くはずだ。

きっとこっそり死角になるようなところで私がトイレを出るのを待っていて、入れ替わりでトイレへ入ったのだろう。

ちょっと床の上に転がって背中と腰を伸ばしていると、三時限目のチャイムが鳴る。妹はまだ戻らない。腹具合でも悪いのかと心配になって立ち上がり、トイレの前に立って「大丈夫?」と声を掛けるも返事がない。思い切って、でも辛うじて中が見える程度に少しだけドアを開けるが、批難の声はない。更にドアを開けると、果たしてそこには誰もいない。

何処へ行ったものか、母に連絡をしたほうがいいだろうかと混乱しながら、電話代わりのタブレットを取りに部屋へ戻ると、
「お兄ちゃん、遅刻!」
と、テーブルの前に座った妹が私を責めた。

そんな夢を見た。