第三百五十三夜

 

連休が明けて、地元の不動産屋から連絡が入った。二人の子供も大きくなって少し手狭になってきたので、彼らが転校する必要のない範囲でもう少し余裕のある物件は無いかと年始頃に相談をしていたのだ。

仕事の都合で地元に引き上げる人が、単身者も家族連れも少なくないのだという。

自分は住むところに拘りがない。内部見学には妻が行く。どうせ学校が自粛要請で休みなのだから、子供達も同行してもらおう。後になって気に入らないようだと面倒だ。

妻との会議でそういう結論に達し、夕食の席で、
「近々、引っ越すことになるかもしれないから、候補の家を見てきてほしい」
と子供達に伝えると、
「本当?やったねお兄ちゃん」
と、娘が文字通り両手を挙げて喜ぶ。矢張り子供達の方でも今の家では手狭に感じていたのかと、尋ねるでもなく謝るでもなく呟くと、
「ううん、違うの。そういうことじゃないの」
と頭を振る。ではどういうことかと尋ねると、彼女は息子をちらりと見る。息子が小さく頷くのを確認した娘は、
「あのね、ベランダにお姉さんが立ってるの。白いお姉さん」
と、今はカーテンに遮られて見えない窓のあちらを指で示す。

自分達が最初の入居者というわけではないが、不動産屋から事故物件の説明を受けた覚えはないし、家賃にも内装にも特に不審な点があった記憶はない。もっと幼い頃にテレビで見たか本で読んだか、そういう怪談話の影響でも受けてたのだろう。

そう笑うのを聞いた息子が、
「でも、それが見えるようになったの、ここへ越してきて直ぐじゃないんだよね。多分、二年くらい前の冬からだったかな。僕は見えないけど」
と補足する。彼は娘に懐かれていて、色々と聞いているようだ。それを聞いた妻が、
「そういえば、その頃に向かいのマンションで飛び降り自殺があったかしらね。どんな人だったかまでは知らないけれど」
と、眉をしかめてベランダを横目で睨んだ。

そんな夢を見た。