第五百三十五夜   混雑した列車を避けて退社を遅らせると、最寄り駅前の量販店で出来合いの惣菜を見繕って家路に着いたのは午後十時の少し前だった。 定時あたりで退社をすると帰りの電車が随分と混み合うようになってきて […]
第五百三十四夜   早朝、朝日の照らす海が綺麗だと子供に起こされテントを出る。 小学校低学年で好奇心の塊のような弟に引き摺られ、海を見下ろす崖へと出ると、元々が低血圧の気のある姉が、父母のキャンプ趣味に付合わさ […]
第五百三十三夜   風呂上がり後のあれこれを終え、いざ寝ようかというとき、お客の言葉を思い出した。 ――四角い部屋の真ん中に布団を敷き、四隅を順に見回しながら寝る。 それは、金縛りに遭う方法だという。節分に恵方 […]
第五百三十二夜   風呂から上がり、濡れた身体をタオルで拭きながら晩酌のツマミに何を作るか、冷蔵庫の中身を思い出しつつシミュレートしているうち、 「しまった」 と思わず独り言ちた。ちょうど昨晩、買い置きの酒を切 […]
第五百三十一夜   予想だにしなかった間取りに虚を突かれ、 「何ですか、これ?」 と尋ねる間の抜けた声が、家具やカーテンの無い部屋に特有の残響を残した。担当者が苦笑いを浮かべて、 「出窓、だったものです」 と錠 […]
第五百三十夜   賑やかな部室 「五分で戻って来ること、いいね?」 と念を押す顧問にはいと答えながら軽く頭を下げて部室棟の鍵束を受け取り、職員室を後にした。鍵を任されるのは信用されているからなのか、それとも単に […]
第五百二十九夜   「ああ、そうそう、これ持って行って。で、店の裏口を出たところで使ってから帰ってな。ゴミはそこらに捨てたら駄目よ」 と渡されたのは、名刺の四分の一ほどの大きさの長方形の袋だった。よく見れば紙の […]
第五百二十八夜   陽光が目に刺さって目を覚ますと、全身に軽い痺れのような感覚が有った。筋肉痛の先触れのような、こむら返りのおさまった後の疲労感がまだ筋肉に残っているような感覚だ。 はて、昨夜はそんな風になるま […]
第五百二十七夜   顔を洗って居間へ行くと、ソファで珈琲片手に新聞を読んでいた夫がちらりとこちらに目を向けておはようと言うのでこちらもいつも通りの挨拶を返す。 今日は夫が朝食の当番で、サラダは出してある、ハムエ […]
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