第五百五十七夜
テレワークを終えて五時半を回った頃、娘と並んで自転車に乗って近所の量販店へ買い物に出掛けた。いつの間にか随分と陽が長くなったもので、辺りはまだ夕焼けにもならずに明るいままだ。
駅前へ向かうには幹線道路を渡らねばならないのだが、そこへ向かう途中、
「そこを曲がって行こう」
と、後ろを走る娘が声を上げる。
ペダルを漕ぐ脚を緩めながら理由を問うと、ある公園の脇の道を通りたくないのだという。そこは高速道路が幹線道路を跨ぐための立体交差の陸橋になっていて、三方向を一般道、天井を高速道路に囲まれた橋の下の空間がちょっとした公園になっている。左右に走る高速道路の南側には背の高いマンションが立って、高架下の公園は一日中薄暗い。それでは生け垣の躑躅もよく育たないのだろう、細く疎らでいかにも侘しい。いつ脇道を通っても、賑わっているのを見たことがない。
そこを迂回するとなると、百メートルほど離れた交差点まで遠回りしなければならない。何故態々そんなことをと理由を尋ねると、学校で色々な噂があるらしい。
高速道路の通る前、つまり半世紀以上も前のことだが、元々は墓地だったとか、校内暴力全盛の頃には不良達の溜まり場になっていて、暴力沙汰どころか死人が出たとか、雨を凌ぐのに利用していた浮浪者が何人も死んでいるとかの理由で、色々の幽霊が出る、特に夕暮れ頃は黄昏刻といって化け物の出る時間だから、出来ることなら近寄らないほうが良い。
そういう話を、今年入った部活動の先輩達から聞かされたのだそうだ。実際、部活の帰りが晩くなると、先輩達は態々公園を迂回して帰るらしい。
仲良くお喋りをして帰る時間を少しでも稼ぎたい口実かしらと思いながら、娘もまだまだそういう年頃なのだと、少し安心しながら自転車のハンドルを交差点へ切って漕ぎ出した。
そんな夢を見た。
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