第五百五十六夜

 

季節外れの台風が直撃するとの予報が出て、今日は朝から倉庫やらの風害対策をし、仕事は日暮れ前に引き上げることになった。

台風から続く雲が長雨を降らせる中をちょうど子供達が下校中で、色鮮やかな傘やらランドセルやらのはしゃぎ回る田舎道を慎重に運転し、隣町の大型量販店へ向かう。

台風の足の速さ次第だが、少なくとも今夜から明日一杯は外を歩きたくなるような天気ではないという予報だから、食料くらいは買い込んでおかねばならない。

糸のように細く尾を引く雨に視界が悪い中を慎重に走っていると、郊外へ出るための四つ辻で信号に捕まって車を停める。

横断歩道の手前では緑色の雨合羽を着た人物が黄色い布の付いた棒を振りながら子供達を渡らせている。

子供達が渡り終えると彼は私に一礼して棒を下ろし、こちらも一礼を返すと直ぐに信号が変わってゆっくりとアクセルを踏む。
――全く懐かしいものを見たものだ。
平日のこの時間に町中を車で走ることはほとんどなかったから、実際ああいう光景を目にするのは自分が小学生の頃以来かも知れない。

隣町へ続く一本道を走りながらそんなことを考えていると、どうも先程の合羽の人物に見覚えがあるような気がしてくる。小さな町だからというのではない。自分が子供の頃、同じ色の合羽を着た人物に、横断の見守りをしてもらっていたような気がする。

今思えば見通しも足回りも悪くなるからだろう、雨の日に現れては道路沿いの用水路の脇ではしゃぎ回る子供達を優しく窘めていた。そんな理屈のわからぬ子供が言い始めたのだろうか、子供達は皆、彼のことを「河童のおじさん」と呼んで慕っていた。そんな記憶が蘇って来る。

たまのことだからはっきりとは分からないが、河童のおじさんはいつも同じ初老の男性で、地域の人々が持ち回りで担当していたわけではなかった。もう二十年も前のことだが、同じ人物が続けているのか、それとも代替わりをしたのだろうか。

そんなことを考えながら、田植え前の田の中を通る道を隣町へ急ぐ。

そんな夢を見た。