第五百五十五夜

 

仕事帰り、電車を降りて歩きだすと、今日は妙に身体が重かった。普段なら食費の節約になる程度には簡単な自炊もするのだが、こういう日は多少贅沢でもして鋭気を養いたい。まだ時間が早いので一旦帰宅して楽な格好に着替え、自転車に跨って漕ぎ出す。

今やベッドタウンとなった旧市街の我が安アパートから、五分も走れば環状線に出る。環状線沿いには運転手目当ての飲食店やコンビニエンス・ストアが点在していて、中には割と有名な店もある。

行きつけのラーメン屋がその環状線の向こう岸にある。広い駐車場のあるその店からは横断歩道が遠く、代わりに目の前に歩道橋がある。遠回りが面倒なのと、多少は足腰の鍛錬になるかという淡い期待とで、その歩道橋を自転車を押して渡ることにしている。

旧市街の細い道を幾度か折れ、環状線に出る道へ入ると、前方に赤い回転灯が見える。どうやら事故があったらしい。

救急車やパトロールカーを横目に自転車を降りて歩道橋の階段を上る。中央分離帯には運転席前方のボンネットが大きくひしゃげた赤い車が乗り上げて停まっており、救急隊員が助手席側から運転手を引っ張り出そうとしている。

食事の前に見るには余り気持ちのいいものでない。目を背けながら橋を降りて駐車場の隅に自転車を停めて店に入ると、顔見知りの店員が出迎えてくれる。
適当に注文を済ませて店内のテレビに映る野球中継を見ていると、
「またあそこで事故ですね」
と店員が水を持ってくる。
「また」と言うほど頻繁なのかと尋ねると、数ヶ月に一度かそれ以上の頻度で事故が起こるらしい。
「車の色、赤じゃありませんでしたか?」
という彼に何故知っているのかと尋ねると、
「相性なのか何なのかわからないんですけれどね、あそこで事故が起こるのっていつもこの時間帯、赤い車なんですよ。あんな小さな交差点、車なんて殆ど出てこないから事故なんて起きそうもないところでしょ?変な噂もあって……」
とよく舌の回る彼女の後ろから、出来た料理を早くお出ししろと店主の声が飛んだ。

そんな夢を見た。