第五百五十三夜

 

買い物袋を提げての帰宅途中、自宅まで最後の角を曲がって驚いた。自宅の前に警察車両が停まり、制服警官が交通整理を行っている。

何事かと足を速めて近付くと、ブロック塀に運送会社の大型トラックが突っ込んで、そこで止まらずに父の書斎へ大穴を空けている。玄関前で警官と話をしている父を見て声を掛け、ひとまず自宅に入れもらって荷物を片付けると野次馬根性がむくむくと頭をもたげる。

話を聞きに再び表に出るべく居間を通り掛かると、邪魔になるからと母に制止され、大人しく母の出したお茶とお菓子を頂くことにする。

それでも母とて異常事態に興奮しているらしく、運転手が酒を飲んでいたらしいとか、最近近所のナントカさんの家でも似たような事故があったとか、家の前の細い通りがカーナビの関係で幹線道路を迂回する抜け道にオススメされることが多くなったからじゃないかとか、そういう話を早口で教えてくれる。

今日の夕食は、寝床は、壁と家の修繕費はと母の話は尽きないが、お茶とお菓子は有限だ。お茶を淹れに席を立ち、一目だけでも事故現場を見てみたいという誘惑に駆られ、通りすがりに寝室の戸をこっそりと細く開けて目を近付ける。

と、破れた壁からトラックの全面が、ほぼ歪むことさえなくこちらを睨んでいる。家の壁は吹き飛んで壁紙も捲れ、壁の中の断熱材やら窓ガラスやらが部屋中に散乱しているが、トラック側で壊れているのはヘッド・ランプのカバーくらいだろうか。トラックというのは実に頑丈なものらしい。

とりあえず好奇心は満たせたと目を離そうとして、捲れた壁紙の裏から覗く壁に気付いて思わず小さな声が出る。

母から声を掛けられて何でもないと返し、今度こそ台所でお茶を淹れながら思い出す。

幼稚園児の頃だったろうか、両親に連れられてこの中古物件の内部見学に来た。各部屋を見て回った私が「壁の真っ赤な部屋が気味悪い」と言ったらしい。私の記憶にはないのだが、両親から何度もそう聞かされた。曰く、そんな部屋は何処にもないのに変なことを言う子だと思った、部屋割を決めるときにも私が嫌がるから書斎にしたのであって、位置的には寝室にしたかったのだと。

こちらとしては記憶にないものだからさして気にしていなかったのだが、先程見た壁紙の裏に隠れていた壁の色は、不気味に鮮やかな赤色に間違いなかった。

そんな夢を見た。