第二百四十七夜   どうぞと促され、管理人の引き開けたガラス戸を潜ると、古い木板と僅かなカビの臭いが鼻に付く。その匂いは不快というより寧ろ、 「懐かしい臭いですね。僕が通ったのは、こんな立派な木造の校舎ではあり […]
第二百四十六夜   怪奇モノのTV番組を見え終えた娘達に風呂を促そうとしたときだった。 「じいちゃんも、死神を見たことがあるぞ」 と、ビールで酔った父が上機嫌に笑う。 私が子供の時分には、こんな風に子供と会話を […]
第二百四十五夜   薬品の臭いのする廊下を、足音を忍ばせながら部屋番号を確かめつつ歩く。特に病院が嫌いというわけではないが、非日常的な清潔さ、静かさ、臭いには、どうしても胸がざわつく。 ――あった。 目的の大部 […]
第二百四十四夜   墓場での宴会が終わり、日の出間近の紫色の空の下、同居人である後輩を連れて鎮守の森を歩く。このルートだと住処までは十分程余計に掛かるが、できるだけ人通りの少ない道を歩きたいのでそこは我慢する。 […]
第二百四十三夜   突然、ブツリと電話が切れた。 大型連休を目前に控えた夜、大学の友人の一人から数年ぶりに掛かってきた電話だった。連休中に暇ならば久しぶりに会って酒でも飲もうと、スマート・フォンを肩と耳とで挟み […]
第二百四十二夜   書類仕事が片付くと、職員室に残っているのは今年ここへ赴任してきたばかりの私と、一回りほど年上の先輩一人だけになっていた。声を掛けると、 「もう暫く掛かるから、お先にどうぞ」 と言うので、さっ […]
第二百四十一夜   定時巡回を終えて守衛室に戻ると、雑誌を前にカップ麺を啜っていた先輩が「ご苦労さん」と労ってくれた。 懐中電灯と制服の帽子を棚に起きながら、センサに反応もないのに見回りに出ることに意味はあるの […]
第二百四十夜   麗らかな春の午後、いつも通り閑古鳥の鳴く店内でココアを溶いた牛乳を鍋に入れ火に掛けると、硝子の棒の触れ合う涼やかな音が店内に響いた。店へ入ってきたのは華奢な女性で、年の頃は二十歳くらいだろうか […]
第二百三十九夜   台所の背後にある扉を引き開けると、右手に鏡付きの洗面台、正面にカーテン付きのバスタブ、左手に便器が配置されている。私の借りている部屋のユニット・バスのそれとは配置が異なり違和感を覚えながらズ […]
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