第二百六十四夜

 

ジョギングを始めて半年経ち、正月の初売りで買ったジョギング・シューズも随分とすり減った。そろそろ新しい靴を下ろそうかとも思うのだが、雨で走れぬ日、走れても足元の悪い日が続いてなかなか踏ん切りがつかない。

結局草臥れた靴を履いて玄関の鍵を掛け、軽くストレッチをして走り出す。今日は三日ぶりに雨が止んだから、休んだ分を取り返そうと少し長めのコースへ向かう。
出不精で飽き性の私がこれだけ走り続けられている理由の半分は、日本人らしく形から入るためにウェアにそれなりの金額を掛けたからだ。

もう半分はというと、この長めのコースの折返し付近のコンビニエンス・ストアにある、いや、居る。客が餌をやるので居着いてしまったのだろう三毛猫が、私の走る時間帯には決まって店の裏手の駐車場に並んだダンボールや発泡スチロールの箱の脇に座っているのだ。その中に孔を開けて毛布の敷いてあるものや、トイレまでが用意されていて、店の人間に大事にされているらしいことがわかる。

顔が小さく、大きな目の周りを黒い毛がアイシャドウのように隈取って一層大きく見えるので、漫画に描いたように愛らしい。

それがちょこんと座って通りを眺めている脇を走り過ぎ、その先の公園一回りしてまた通り過ぎる。不思議そうにこちらを眺める愛らしい姿が励みになった。

まだ人気のない道を快調に公園までの半ばへ走って来たところ、蕎麦屋の暖簾の下に三毛猫が座っているのが見える。近付いてみれば例のコンビニの三毛猫とそっくり同じ柄で、走り過ぎる私をいつものように不思議そうに目で追った。

例のコンビニ以外で出会うのは初めてだが、野良猫なんて気ままなもので、今日はたまたま彼女の散歩時間がずれたのだろうか。あるいは彼女の親戚か何かで、たまたまよく似た別の猫だったのかもしれない。

そんなことを思いながらコンビニへ付き、信号待ちをしながら駐車場を見ると、いつもの三毛猫が、いつものように大きな目でこちらをじっと見ている。

ここへ来るまで抜かされた覚えはない。もちろん、ビルの間の小径や民家の庭などを通り抜けて来ることも可能だろうが、それで先回りなどできるだろうか。

歩行者用信号が変わりなんとなく彼女を見ながら走り出すと、背中にニャアと短く声が掛けられる。彼女の鳴くのを聞いたのは、これが初めてだった。

そんな夢を見た。

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