第二百七十夜

 

合宿一日目は怒涛のうちに夜になった。

早朝に集合した後、倉庫から非常時用の薄い敷布団を屋上へ運び出して干し、家庭科室で昼食を作りながら器具の扱いやゴミの処理など衛生管理の説明を受けた。午前の練習を終えた先輩達がやってきて昼食の後は皿洗い、それが終わると屋上から布団を下ろし体育館の舞台へ積み上げて、今度は夕食の準備に取り掛かった。直ぐに午後の練習が終わって夕食、その片付けを終えると夏休みの宿題に取り掛かる「学習の時間」で、それと並行して先輩から順にプールのシャワー室へ行って汗を流し、各自で洗濯も行って、体育館からほど近い指定の教室に張った縄に干す。自習室へ帰ってくると既に就寝時間になっていた。体育館に布団を並べ、各自持参したタオルケット類を腹に乗せると顧問が「明日も早いからさっさと寝るように」と釘を指してから証明を消す。

非常口を示す常夜灯だけが僅かに照らす他は一面全くの暗闇となると、先輩達も一年生も疲れ切って、ワイワイとお喋りをする者もなく、直ぐにあちらこちらから寝息が立ちはじめる。

弱い冷房に少しずつ体温の奪われるのが心地よく、疲れた四肢が重くなり、周囲の寝息も遠くなりかけたところで、不意に左の肩を掴まれ、軽く上下に揺すられた。

寝入りかけの意識にゆっくりと、誰かがトイレにでも誘おうとしているのかと思い至って目を開け、左肩の方を見ると、そこには誰も居ない。イタズラか何かかと思い、布団の上に身を起こして反対を見てみても、やはり肩を揺すれるようなところに人影はない。五十センチほど離れた布団の上で、同学年の友人がゆっくりと胸を上下させているばかりだ。

さては左側の布団の友人が、布団から手を伸ばしてイタズラでもしたのかと振り返ると、今度は布団ももぬけの殻で、それを確認して初めて背筋に冷たいものが走る。

無人の布団を無言のまま見つめていると、背後からひたひたと遠慮がちな足音が近付いてきて、
「眠れないの?」
と、できる限り潜めた声がする。それは無人の布団に寝ていた友人のもので、事情を説明して肩を揺すらなかったか尋ねると、
「私は年の離れた弟と同じ部屋で寝ているから、トイレに起きて暗い中を歩くのには慣れているの。だからわざわざ友達を起こしたりなんかしないよ」
と、大きな目を不思議そうに丸くして、彼女は小さく首を傾げた。

そんな夢を見た。