第二百六十五夜

 

社長が事故で急死したとの報せが入り、午後の社内が普段にも増して慌ただしくなった。

役職付きは今日のうちに通夜があるかもしれないからとのことで、下に関係先への連絡を指示し、喪服や数珠を何処に仕舞ったか思い出しながら、一旦帰宅するべく準備を始める。

せめて電車内で触れる仕事くらいはと書類をまとめていると、新人と教育係が何やらこちらを横目で見ながら声を潜めてお喋りをしている。

荷物を手に部屋を出がてら二人の脇へ行き、どうかしたかと尋ねると、教育係が何でもないと言う横で、
「凄いんですよ、先輩。社長は長くないかもって、ついこないだ言ってたんです」
と興奮気味に新人が言う。

不謹慎なと窘めようとするより早く、月曜に姿を見かけた際に顔が簾でも掛かったように横線に覆われて見えた、教育係曰くそれは彼女の経験上いわゆる死相のようなもので、それが見えると一週間くらいでその人物は亡くなってしまうのだそうだ。

あまりそういうことを口にしないようにと嗜め、後の業務を頼んでセパレータの戸を開けて外へ出ようとしたとき、例の二人の方から、
「まさか本人には言えないよね」
と聞こえる。それはそうだ。そんなことを社長に言っても、一笑に付されるだけに決まっている。

後ろ手に閉めた戸の隙間から、「貴方も気を付けてとはね」と聞こえた気がした。

そんな夢を見た。

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