第四百十九夜   正月だからといって特にすることもなく、かといって出掛けるのも憚られ、本棚に並んだ本を適当に手に取っては目を通して過ごしている。 元々目の早い質で、しかも一度は読んだことのある本ばかりだから、中 […]
第四百十五夜   一週間分の食料を買い込んで、両肩に大きな買い物袋を掛けてマンションの共用玄関のガラス戸を潜り、重い荷物がずり落ちぬよう気を遣いながらオートロックを開ける。 エレベータ・ホールには、運悪く二台の […]
第四百十四夜   不意のトラブルに対処するために帰宅が遅れ、久し振りに最終間近の電車で最寄り駅へ到着した。 軽食を摂る暇もなく、クリームと砂糖を入れた珈琲で誤魔化していた腹に何を入れるか考えながら、すっかり人出 […]
第四百十夜   トレイに載せたグラス二つを窓際の少女達へ運ぶと、 「ね、大手町の首塚が壊されて、早速、祟り?かなんかの地震が起きたんだって?」 と聞こえてきた。 私のバイト先であるこの店は大手チェーンに比べて値 […]
第四百九夜   始業前、コートを脱ぎ給湯室へ行こうとすると、既に席についていた上司が、 「申し訳ないけれど、私の分もお願いしていい?」 と、こちらにひらひらと右手を振りながら声を掛けてきた。 珍しいこともあるも […]
第四百六夜   日帰りの撮影旅行から帰宅すると直ぐに、記憶媒体に一杯になったデータを全て選択してデスクトップ・パソコンのハードディスクへ移すよう命令すると、ややあって作業中のファイルを提示するウィンドウに、残り […]
第四百五夜   目を覚ますと周囲が青白く、消毒薬の匂いに満ちていた。眠い頭で暫く考えて、自分が入院中だと思い出す。 学校から帰宅して直ぐに急な腹痛に襲われて医者に担ぎ込まれ、虫垂炎、いわゆるモーチョーだと診断さ […]
第四百一夜   語学の授業で同級の、線の細く整った顔立ちの割に地味というか陰のある女子に気を惹かれていた。授業の終わりに声を掛け、学食で昼食でも一緒にどうかと尋ねると、やんわりと断られるが、こういうものは一度で […]
第四百夜   病室で亡くなった患者さんの清拭が終わり、ベッドからストレッチャへ載せて病室を出る。遺体の搬送業者が来るまで、一時的に霊安室へ移っていただかなければならない。 ご高齢の奥様は付きっきりの看病続きであ […]
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