第五百九十七夜   保育所から娘の手を引いて帰宅し、夕飯の下ごしらえをしていると、妻から後三十分ほどで帰宅する旨の連絡が入った。 それなら帰宅を待って一緒に食べようと娘に告げると彼女は力一杯に頷いて、何を思い付 […]
第五百九十六夜   昼休み、近所の公園で空にした弁当箱と水筒とを入れた手提げ鞄を片手に事務所へ戻ると、南側の港を向いた窓の辺りで同僚達が何やらワイワイと騒いでいた。 自分のデスクに荷物を置いて歩み寄り、何か珍し […]
第五百九十五夜   古美術品を買い取ってほしいとの依頼を受けて、高速道路で県を三つか四つ跨いで山中の別荘地へとやってきた。 元は私の店のある地方都市にお住まいの裕福なご夫妻で、昔から懇意にさせていただいていた。 […]
第五百九十四夜   二人前の酒と肴とを入れた手提げ袋を手に部屋の扉を開けた家主に招かれるまま部屋へ上がり、下駄箱の上に置かれた消毒液を手に擦り込んだ。 部屋の主は大学の友人で、ここ数日顔色が優れないのを心配して […]
第五百九十三夜   出先で腹具合が悪くなり、たまたま目に付いたコンビニエンス・ストアへと脚を早めた。疫病騒ぎの初期には多くの店で客の便所利用が禁止されていて難儀したのを思い出す。 自動ドアから出てくる客と入れ違 […]
第五百九十一夜   窓外から響く列車の走行音に目が覚めて、いつの間にか眠っていたことに気が付いた。部屋は既に真っ暗で、西向きの窓から商業ビルの看板の灯が入ってこないということはもう深夜なのだろう。 寝間着代わり […]
第五百九十夜   自然に囲まれた山の中の祖父母の家での生活も、夏休みが終わりに近づく頃には流石に少々飽きが来ていた。 蝉の声を聞きながら、居間の炬燵卓で本を読む。盆休みに顔を出した父を祖父の車で街の駅まで送った […]
第五百八十九夜   今年は久し振りに行動制限の無いお盆だからと父が煩く、世の帰省ラッシュが済んでから多少安く、また人も少なくなったであろう夜行バスで実家に帰った。時期に自由が利くのが学生の楽なところで、金銭に自 […]
第五百八十八夜   店の前に張り出した日除けの簾の陰へ置かれたプラスチック製のベンチに片膝を上げて祖父と向かい合い、将棋を指していた。毎年夏休みになると、姉とともに母の実家である海辺の雑貨屋に預けられ、こうして […]
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