第六百十九夜

 

担任から、娘の通学路について一斉メールで連絡が来た。年末が近付いて気の緩む時期、四月に届け出たそれから大幅に逸れて寄り道をする子供が増えるので、各家庭で適切な指導をとのことだった。

中学生ながら未だ精神的に幼く反抗期はもう暫く先らしく見える我が子には無縁な話かと思いつつ、夕食中に水を向けてみる。すると意外にも、
「えー、寄り道じゃないけど……」
と前置きをしつつ、届け出のルートからは随分と異なるルートを通っていると、あまり悪びれた様子もなく白状する。
どんな道を通っているのか尋ねると、
「普通だよ。真っ直ぐ行って、踏切を渡ってる」
と言われてこちらも得心する。四月に提出を求められた書類に私が最初に書き入れたのと同じ、単純に最短距離のルートだろう。

途中いかがわしい店があるでもなし、何の問題も無かろうと提出し、しかし大幅に変更されたのを思い出す。線路を横切るのに踏切は危険だから少々遠回りになる小さなガード下を迂回して通れというのだった。中学生にもなって踏切が危ないだなんてこともなかろうとは思ったが、この辺りの踏切はいわゆる『開かずの踏切』で、特に登校時には無理に潜ろうとして危険な目に遭う生徒が毎年出るのだと言われて納得したのだった。
「踏切に捉まって遅刻しそうになったりはしないの?」
と尋ねると、充分早く家を出ているし、そもそもガード下へ遠回りするならその分早く家を出なければならないのは変わらないと胸を張る。

変わらないなら遠回りでもいいじゃないかと言うと、
「あそこ、あのガード下ね、信じてるわけじゃないんだけど、嫌な噂があるの。小さい子が事故で亡くなってて、その生首の幽霊が出るんだって。車の屋根の窓から後ろ向きに顔を出してて、天井が低いのに気付かないまま首が落ちて……」
と眉根を寄せて首を振る。

そんなまさかと箸を置き、ズボンのポケットからスマート・フォンを取り出して検索してみると、三十年ほど前に似たような事故のあったという記事が何軒もヒットした。話に多少の尾鰭は付き、正確さは失っているものの、子供の噂話というのもなかなか侮れないものだと嘆息を漏らした。

そんな夢を見た。

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