第六百四十五夜

 

私の通う小学校は創立百周年を超える古いもので、いわゆる学校の七不思議がたくさんある。七つどころか両手両足の指でも足りなくて、もうどれが元々の七不思議なのかわからない。七不思議なのに「たくさんある」だなんておかしい?でも、そのお陰で「七つ目を知ったら呪われる」なんて話もない。だから、安心して私の話を読んでほしい。

校庭でのドッジボールから大急ぎで戻ってきた昼休みの終わり際、教室の後ろで女の子達が何やら騒いでいる。騒いでいるだけならいつものことなのだが、今日は少々雰囲気が違う。普段なら絡むことの少ないインドア派と体育会派の面子が集まって大きな環を作っているし、中にインドア派の男の子も混ざっている。一応、女子の端くれとして様子を窺ってみようと近付くと、「嘘吐き」、「嘘じゃないもん」と何やら喧嘩をしているようだ。直ぐに担任がやってきてチャイムとともに五時限目の始まりを告げる。

それでも数人は席に着こうとせず、担任がわざとらしく怖い声色を作って座るよう命じ、何か揉め事かと尋ねると、早々に環を離れた学級委員長が、
「池の脇で遊んでいた子達が、変なものを見たって言ってます」
と報告する。それを皮切りにやいのやいのと喋り始める皆を担任が制し、目撃者に挙手をさせて本人に何を見たのかと尋ねる。

曰く、校舎脇の池の脇に、今日は七人が集まった。奇数人で花いちもんめもなかろうとかごめかごめをすることになり、じゃんけんで最初の鬼になった。七人ともなると当てずっぽうではなかなか当たらない。三回、四回と鬼を繰り返すうち、そろそろ当てて鬼を交代しなければ皆盛り上がらぬだろうと、目に当てた手と鼻の間に小さく隙間を作ってこっそり皆の足元を覗くことにする。一々靴など覚えているわけではないが、よく遊ぶ仲なら何となく履いていそうな靴と靴下とがわかったり、見覚えがあったりする。そうして周囲をぐるぐる回る靴を見ていると、中に一つ、木で出来た台形の上に下駄の鼻緒を付けたような奇妙な履物に白い足袋を履いた足がある。そんなものを履いて学校に来るものなど見たことがないから驚いて尻餅を搗き、不審に思った皆に事情を説明して教室に逃げ戻ったのだと言う。

説明が一段落して再びざわつこうとする教室を担任の咳払いが制し、
「それは『ぽっくり』と言う履物でしょう。今だと七五三で和装をするのに履いたことがある人もいるんじゃないかな。嫁入り前の女の子が履く物だから、池の水神様が一緒に遊びたくて出ていらっしゃったのかもしれませんね」
と説明し、次いで『ぽっくり』を履いたことがあるかどうか挙手を求めると皆の話題はぽっくりと七五三に移って、嘘吐きだのの諍いは何処かへ行ってしまった。

そんな夢を見た。

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