第六百四十四夜

 

憂鬱な月曜の朝に目を覚まし、洗面台の前に身を屈めて驚いた。背中から脇腹が痛むのだ。といってもそれは学生時代によく味わっていた痛みで、恐らく病期の類ではない。筋肉痛だ。

洗顔後、簡単な朝食を摂って着替え、通勤電車に乗って判明したのは腹筋、側腹筋と背中の筋肉が、なにかにつけて痛むということだった。特に背中の筋肉は、筋力トレーニングの際に痛んだ覚えのないような、体の内側の痛みのような気がする。

奇妙なのは、そんな筋肉痛の原因に全く心当たりが無いことだ。昨日は洗濯と食料の買い出しの他には殆ど身体を動かしていないし、土曜も部屋の掃除程度で同様だ。そもそも筋肉痛が二日後に来るほどの歳でも、まだなかろう。

出社して珈琲を淹れてデスクに付き、そんなことを考えていると、
「どうした、呆っとして」
と上司に声を掛けられた。始業前の世間話にちょうど好かろうと思って話してみると、
「筋肉痛の原因は、いわゆる運動とは限らないだろう」
と、運動に限らず普段と違うことがなかったか思い出すように言われて気付く。
「あ、そういえば昨日から、やけに目とかおでことかが痒くなったり、くしゃみと水洟が止まらなくなったりしたんですよ。今は平気ですけど」
「ああ、くしゃみが原因だね。普段使わないような筋肉を動かすから。花粉症は今年初めて?」
「うわぁ、これが花粉症ですか。今までは平気だったんですけど、医者に行ったほうがいいんですか?」
「まあ、接客ならイメージは悪いけど、事務仕事をしている分には症状と自分の気持ち次第じゃないかな。花粉シーズンの前なら減感作療法とかの処置もあるけど、今年はもう遅いから」。
彼が花粉症らしい症状を見せたことはなかった割に詳しそうな話しぶりが気になって尋ねると、奥様が結構な花粉症で、色々と苦労しているらしい。
「くしゃみも意外に怖いもんでね、家のも身体が鈍っていたせいで、ギックリ腰になって大変だったんだ」。
そんな背筋の寒くなる言葉で話を切り上げた上司の後ろ姿を見送りながら、しばらくぶりに筋トレを再開しようと心に誓った。

そんな夢を見た。