第八百五十六夜

 

 同僚と昼食のうどんを突きながら世間話をしていたところ、一人暮らしの家事のコストの話題になった。掃除やら自炊やらに続いて洗濯の話になると、
「洗濯と言えば、ちょっと前から変なことが起こるんですよ」
と同僚の一人の女子社員が困り顔をする。
 朝起きると朝食後に洗濯機を回し、出勤前にそれを小さなベランダに干して出掛けるのだが、
「最近になって、家に帰ると洗濯物が取り込まれて畳まれてることがあるんですよ。毎回ってわけじゃないんですけど」
と言う。
 それは怖い、ストーカに狙われてでもいるんじゃないかと心配の声が上がる中、
「ついこの間、引っ越したばかりじゃなかった?」
と同僚の一人が尋ねる。一月の末頃にと彼女が答えると、続けて、盗まれたものは無いのか、それはいつ頃から始まったのか、引越し前は何もなかったのかと質問攻めが始まる。
 彼女の返答をまとめると、特に盗まれたものは無いし、洗濯物が汚されていることもない、始まったのは二月の末頃だろうが、外に干すと毎回というわけではないが、雨の日に室内干しをしている場合に洗濯物が畳まれていることはないそうだ。ベランダに出入りする窓はきちんと戸締まりをしていて、ガラスが割られたりしている様子もないという。すると誰かが玄関のドアから侵入しているくらいしか考えられないが、単身女性専用のアパートで、共用玄関がオートロックのため不審者も侵入し難いため、まるで犯人の見当が付かない。
 それを聞いて皆で首を傾げる中、
「引越し前は無かった、二月末から始まったなら、その部屋に幽霊でもいるんじゃないかな、杉の花粉症の」
と、花粉症でまぶたの腫れた上司が冗談を言った。
 そんな夢を見た。

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