第八百四十九夜
祖父の何回忌だったか、疫病騒ぎもあって暫く振りに帰省した。法事も恙無く終え、雨の軒下で夕食後の一服に煙草を吸っていると、いつの間にケージから出たのか、連れてきた猫が家の灯りにうっすら照らされた庭先に現れた。
二年ほど前にアパートにやってきた野良を飼い始め、預ける友人もおらず仕方なく連れてきたのだが、子供達がケージから出しでもしたのだろうか。
山へ行って迷いでもしたら大事だと、煙草を携帯灰皿に片付けて名を呼びながら身柄の確保に乗り出すが、彼は私を見向きもせず、裏の林をじっと見つめる。その先にたぬきか何かでもいるのだろうかと目を向けると、ぼんやりと燐光が揺らめいて見える。猫が不意にぱっと飛びかかると燐光はそれをすんでのところで躱し、ふらふらと裏手の林へ漂い流れる。猫もそれを追って林に駆け込み、下生えの笹の擦れる音を残して姿を消す。
慌ててその後を追って行くと、地上四、五メートルほどの木の細い枝から猫が手を伸ばす先を青白い光が漂い、暫くからかうように揺れた後ふっと消える。
猫は残念そうに木からするすると下りて雨露に濡れた身体をぶるぶると振ると、私の足元に来てこちらを見上げ、抱いて戻れとひと鳴きする。
猫を抱き上げて安堵すると、人魂らしきものを初めて見た奇妙な高揚感と悪寒が背筋を粟立たせ、大急ぎで林を降りて実家へ戻った。
そんな夢を見た。
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