第八百二十三夜
電車で座る女
夜勤明けのの早朝、下りの列車に揺られながら朝食に何を食べようかと思いながらスマート・フォンでニュースを眺めていると繁華街の駅から如何にも水商売らしい派手な身形の女性が乗ってきた。形の良い尻をタイト・スカートで見せびらかしながら、扉横の席に座っていた私の前を過ぎ、正面の席に座って寝ていた作業着姿の男性の前に立つとそのままその膝の上に腰を下ろす。
予想外の動きに驚いたが、彼女はそのまま作業着の男性の膝をすり抜けて座面に腰を下ろし、脚を組んでスマホを取り出す。二人の重なった部分は半透明に見え、作業着やバッグ、長髪などお互いにはみ出した部分はごく普通に見えるようだ。
疲れて幻覚でも見ているのかと幾度か目を擦るが、やはり作業着の男と派手な女が重なって見える。こちらの視線に気付いた彼女が訝しげにこちらを睨むので視線を外してスマホのニュースに目を向けるが、内容はまるで頭に入ってこない。
ふと、もしこのスマホで眼の前を撮影したらどう写るのかと思い付くと好奇心が疼く。とはいえ見知らぬ女性を断りなく撮影するわけにもいかず、かといって理由をどう説明して許可を貰えばよいかもわからない。
結局彼女が途中駅で降りてしまうまで、ただそのストッキングの脚と作業着の脚との辺りをちらちらと見ながら過ごした。
そんな夢を見た。
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