第八百二十四夜

 

 連休明けの通学路を歩いていると、いつもの交差点でいつもの連中と合流した。何やら朝から男女に分かれ、信じるとかあり得ないとかキャアキャアと揉めている。
 何の話かと尋ねるまでもなく、彼らの方から賛否のどちらにつくのかと言って、口々に事情の説明を始める。しかし私も聖徳太子ではない。落ち着いてくれと頼むと、最もお喋りな女の子が代表して話をしてくれることになった。
 体験したのは彼女自身ではなく、隣にくっついて歩いている二年生の男の子だそうだ。連休中日の一昨日の朝、隣県の動物園へ行こうと朝から父親の運転する車で出掛けたという。
 住宅街を出て幹線道路に入ると交通量はそれほどでもなく、皆速度を出していてお母さんが怖がる。お父さんも家族の命を預かる身として、比較的流れの緩やかな車線に入って安全運転に努める。しばらくそうして走っていると急に流れが悪くなり、やがて渋滞となってほとんど動かなくなってしまった。
 何があったのだろうとかトイレは大丈夫かとかと暇潰しに話しながらのろのろと進むうち次第に流れが良くなり始め、前方に赤い回転灯が見えてくる。どうやら事故があったらしい。詳しい様子はわからないが、右側の車線に大きく潰れた黒い車があり、その前方に救急車が停められている。
 その脇を徐行しながら父から見ちゃだめだと言われるが、好奇心が勝ってつい右の窓外を見ると、ストレッチャを押す救急隊員の頭上に大きな鎌を構えた骸骨がふわふわと漂っていたのだそうだ。
「絶対に死神だって!凄いよね」
「いやいや、死神とかいるわけねーし。いたとしてもそんなベタベタ、コテコテの格好なんてありえねーよ」
と口々に言い合う彼らにどちらの意見を指示するか態度を明らかにせよと迫られる。
 どう答えたものかと思案する。女子の意見を否定して嫌われるのも好ましくないが、女子に味方したと揶揄されるのも同様だ。
「もしそいつが死神だったら、見ちゃった人が呪われたりしそうだから、何かの見間違いだったらいいな」
と答えると、そんな恐ろしいことを言うなと却って顰蹙を買ってしまった。
 そんな夢を見た。

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