第四十三夜

柿の木の葉が茂ってきた。面倒ではあるが毎年のこと、仕方がなく重い腰を上げ、殺虫剤を撒くことにする。

噴霧器に殺虫剤を入れ、ポリタンクを背負って木に向かう。風向きを確かめていると、雀が数羽飛んできて、何をしているのかとチュンチュン囀る。
「暖かくなってきたからね、虫が付くから殺虫剤を撒くんだよ」
と説明してやりながら風上に立つ。

雀たちは小さな嘴を忙しなく動かして、
「それはあんまりだ、虫たちが可哀想じゃないか」
「そうだそうだ」
「虫たちにも生きる権利がある」
「人間は身勝手だ」
などと喧しくチュンチュンチュン。

愛想笑いを作るのも面倒で、露骨に眉を潜めながら、
「しかしね君ら。君らは去年の暮頃、禄に食べるものも無い時期によく熟れたこの柿の木の実を食べただろう。こうして葉を食い荒らす虫どもの付かないようにしなければ、この木は簡単に駄目になってもうその実も生らないかもしれないのだよ」
と諭す。

しかしそれでも、
「それはあんまりだ、虫たちが可哀想じゃないか」
「そうだそうだ」
「彼ら虫たちにも生きる権利がある」
「人間は身勝手だ」
「チュンチュンチュン」。

 「ははぁ」と合点が行った。要するにこの雀たち、自分たちの喰う小虫が居なくなっては困るのだ。なら素直にそう言えば好いものを、権利だ勝手だと傍ら痛い。意地が悪いとは知りながら腹立ち紛れに、
「そうは言うがね、この柿の木にだって、生きて花を咲かせ実を生らせる権利があるよ」
と言ってやる。虫にも生きる権利がと言ったの雀の方だ。まさかその口で「虫は自分たちが喰うから柿に害は出ないだろう」などとは言えないはずだ。

ところが雀たち、
「そんなことはない、柿は植物じゃないか」
「そうだそうだ」
「植物は大人しく動物の餌になっていればいいのだ」
「人間は何を勘違いして偉ぶっているのだ」
などと怒り狂ってチュンチュンチュン。

「なら言うがね」、と半ば呆れながら問う。
「晩秋の食い物はどうするのかね。木の葉がやられてしまえば実も生らないぞ。虫たちだって、落ち葉になる葉が食われてしまえば、身を隠すところも喰うものも無くなってしまう」
と。

これを聞いた雀たち、
「そんなもの、お前が果物屋で柿の実を買って並べればいいではないか」
「そうだそうだ」
「我ら雀に対する愛は無いのか」
「チュンチュンチュン」
ときたものだ。厚かましいとはこのことである。

いい加減に端から少ない愛想も尽き、所詮雀は雀なのだと諦めて、風下へ向かい噴霧器の殺虫剤を吹きかけた。

そんな夢を見た。